お館様が兵を率いて出陣してから４日目……主のいない御殿には、留守を預かる鎧姿の将達が幾人も待機していた。
　大江山の周囲はどこもお館様の勢力圏内で、大江山が敵対勢力の領地と接しているわけではないし、万が一それら敵対勢力が攻め上ってきたとしても、お館様帰還まで持ちこたえればいい。
　状況的には楽な留守番だが、各人に気の緩みは微塵も見られない。
　それだけ普段この大江の主の存在が大きいという事だろう。

「皆ピリピリしてんねぇ……ま、ツナちゃんは平城京の屋敷に帰るわ」

「ん？　もう半月もすればお館様が帰還して宴会やで？　」

「ま、暇だったらその頃にまた来るよ。じゃあな」

　留守中の総大将……らいち……今は茨木童子にそう、挨拶すると、ツナちゃんは馬に跨って大江山を下った。



　大江山を下り、馬を走らせて８里程の所で街道を外れ、しばらく行くと少し開けた場所があり、そこには具足こそ身に着けていないが、一目でそれと見てわかる将兵たちが陣を張っている。

「渡辺綱殿がお着きになられました」

「おお、して、大江の様子はどのようですかな？　」

　兵士に馬を預け、陣の中心部に案内されると、鎧に身を包んだ髭の武者がツナちゃんを出迎えた。

「残った将は茨木童子・虎熊童子・星熊童子・幾島童子の４名。残った兵士は以前の報告と変わらず。備えも以前の報告のままにござります」

「ふむ、なるほど……では、明朝此方を立ち、昼より開戦。３日もあれば大江は陥落しましょう……」

「大変なお役目とは思いますが、よろしくお願いいたします」

「何をおっしゃいます。酒呑童子討伐の一番槍をお譲りいただき、頼光殿には大変に感謝しておりますぞ」

　深々と頭を下げるツナちゃんに、髭の武者は軽く頭を下げる。

「では、私は御所に報告に上がりますので、これにて……」

　馬を替え、陣を出て平安京へと馬を走らせる……

　大江攻めの陣容は３千といったところだろうか？　地の利のある山とはいえ、この兵力で攻めればひとたまりもないだろう。
　そして、お館様の絶大なカリスマを考えれば、兵はきっと最後の一兵まで戦う筈だ。

「さっきのが今生の別れか……」

　茨木童子の姿を思い浮かべ、馬上でぽつりと呟く。
　大江山が落ちればあとは帰る城を失った酒呑童子の討伐が開始される事だろう。
　そうなれば、頼光四天王にも出番が回ってくるかもしれないが、ひとまずはこれでツナちゃんお役目は終わり。

　酒呑童子が討たれて半月もすれば、世に酒呑童子の悪行が流布され、それを討った藤原氏の素晴らしさが喧伝される事だろう。
　大江山で暮らし、この戦を勝利に導く情報を集めたツナちゃんの地味な功績が称えられる事は無く、きっとさっきの髭の名が盛んに人々の口に上るに違いない。

　藤原氏の繁栄に影が差す事は無い。

　これからも益々繁栄を極める事だろう。

研究施設の中、割れた培養器やひしゃげた機械類の破片が飛び散った床をソルトが震えながら一歩一歩進んでいく……

フォルシュさん！？　

機器の一つに背中を預け、ぐったりとした様子の部屋の主を見つけ、ソルトが駆け寄る

ぎりっ……

ソルトが歯ぎしりする

そう言ってフォルシュは不敵に笑う

フォルシュはそこまで語ると……

どさり……と床に倒れてまた眠ってしまった

静謐な研究所内にソルトが苛立って壁を蹴る音だけが空しく響く

　再び、今度は担ぎ上げられて高度が上がった知り合いを見送ります。
ウェイトレスさんをちょいちょいと呼びまして。

　などといって若干困らせました。

〜間〜

　ソルトさんとレオンさん、それに手元に帰ってきた硬貨とを見て、おごりとの言葉を若干反芻して。

　若干不満そうに手をにぎにぎ。首を傾げましたが言葉を続けることなく。
レオンさんが去ってからソルトさんにその矛先は向きました。

　どうやら本気で心配してるようです。男が持つとか持たないとかそういう概念はなし。

　事態は割りと深刻でした。

　料理が運ばれてくれば、足をぱたぱたさせていた小娘も居住まいを正して。周りに響かないくらいの声で確かに

　と発声してから料理に手をつけます。食べる食べる、よー食べる。
もくもくと小さな口で、少しずつ色んなものに手をつけながら。

　ごたごた言っても食べてしまえば幸せそうでした。

　　　　　　　義肢の方を見やり

　　　　　　　　orz　←こんな感じになった。
　　　　　　　それから湧き上がるように笑う。

　　　　　　　呼びかければ、男の肩に座る茶色の小人がひと声。