「で、どこに向かってるんだ？」


みんなのいけんをきいてかんがえをあらためた猫は、たすけをもとめにいくことにしました。
そのむかうさきはいったいどこなのか、ししょーはたずねてみることにしたようです。


『……セリィおねえさんのところ、なのです』


いっきにさんかしているなかでであったひとたちはみんないいひとばかり。
でも、猫がかかえるもんだいをはなしたら、猫のことをきらいになるかもしれない。
みじかいなからもつきあってきたひとたちをみていてきっとそんなことはないだろうけれど、でももしそうなってしまったらとかんがえるとあまりはなすきにはなれません。

ししょーたちとわかれたころはむしろ猫をきらってほしいときずつけたことをかんがえると、きらわれるのがこわいとおもういまのじぶんはよわくなったのかもしれない――いや、よわくなったのではなくもともとつよがっていただけのさみしがりやなんだろう、とおもわずじぶんにあきれてわらってしまいました。

でも、猫のもんだいのことをわかっているおねえさんなら、わけをはなせばてつだってくれるかもしれません。

ほんとうは、おねえさんのところにいくのはみんなおわってからにしたほうがいいのかもしれないけれど。
それに、いったいどんなかおをしておねえさんにあえばいいのでしょうか――

すこしだけまよって、でも猫のこころはすでにきまったみたいです。

ししょーもおねえさんのちからはみとめているようで、


「あの姉ちゃんか。それなら問題ねェな。」


うんうんとうなずいてなっとくしたようです。
いっぽうで、セバスチャンはなにかいいたそうにしています。


『セバスチャン、どうしたのです？』


「いえ・・・・・。」


猫がたずねても、セバスチャンははぎれわるくこたえるばかり。

ただ、セバスチャンのいいたいこともなんとなくわかります。
このさきいったいどれほどのきけんがまちかまえているかわからないなかでおねえさんとふたりだけというのはややきにかかるのかもしれません。
しんぱいしょうかもしれませんが、ようじんするにこしたことはないでしょう。


でも、猫のもんだいのことをしっているひとなんて――


『……！』


猫のあたまをよぎったのはいっぴきのしろいりゅうでした。
猫のもんだいのことをみぬいた、ほかのせかいからやってきたりゅう。
そして――













どうしようもなくなったら、うまれかわらせるために猫をたべてくれるとやくそくしてくれた、いのちということわりにふかいかかわりをもったふしぎなりゅう。




もちろんまだ猫はいきることをあきらめるつもりはありません。
むしろぜつぼうしていた猫にいきることをあきらめないようきづかせてくれたひとりがそのりゅうなのですから。



しのおうとおんなじともいえるし、せいはんたいともいえるちからをもつりゅう。

そんなしろいりゅう――キーさんとキーエさんのちからをえられればひゃくにんりき。
それになにより、猫のもんだいをしっていてなおいっしょにいてくれたともだちだから。


ちいさくうなずくと、猫はししょーたちにむかってはなしをきりだしました。


『もうひとり、おねがいしてみたいひとがいるのです――』

いっしょにいけるのがうれしいのか、にこにこしながらキーさんたちによびかけました。
つよいちからをもったキーさんたちがいることであんしんしているようです。

ちらりとめせんをそのよこにうつし――

まえのできごとをひきずっているのか、いざほんにんをめのまえにするととまどいをかくせないようです。
けれども、あいさつしたあともおねえさんがきになっているのかちらちらみています。

地面に円を描き、その上を同じようにぐるぐるなぞりながら。

向こう側から声がする。別の目標を置いているようだ。

ブルーノお兄さんが振り向いた先には、攻城戦でエンカウントするモンスターたちでなく、先程まで話していたロク＝リクくん
……が急いで物陰に隠れる様子が。その上ばっちり目が合いました。
お兄さんはゆっくりと、はみだしている尻尾から目を逸らします。

ロク＝リクくんのかわいらしい行動に、ついつい口元が緩んでしまいます。
しかし、一生懸命隠れるロク＝リクくんのことを考えると、
気付かないふりをした方がよいのだろうか、と思ったりもしました。

どうしようかと考えていた矢先、「棒読みな」猫の鳴き声。

お兄さんはメロメロです。

と、周囲を見回しながら、ロク＝リクくんの隠れているところに徐々に近付いてきます。

「ふふ、お前ならやれるさ……期待してるぜ」的な視線を向けたところで、ふと視界の端にノリで燃やさせてしまった10000PSをとらえ、

二度見してからカートゥーンよろしく目玉を飛び出させて驚き、かつ葉巻＝自分の体に火がついていることに気づいて転げまわった。
　　　　　ラピスに炎上を1追加！

はははは、とひとしきり笑ったところでほっとしたような師匠に気づき、

全然分かってない顔で問いかけた。

ぐっと握り拳を作って努力を誓った後、すぐにぽえっと気の抜けた顔になってそう言ってのけた。

と書類を掲げて小躍りしていたが、ふと止まって書類をじーっと見つめ、

眉を八の字にしながら小首を傾げた。

思い返せばそうやって、苦しんで泣いて、そして笑って生きていた――

ごめんね。と。小さな龍は、小さく謝った。それはきっと彼にでは無く、今までの全てに。
ううん、と。だから彼のお礼に首を振って。
お礼を言うのはキーの方かも、と笑う。
わかっちゃった。
わかってきちゃった、なんて。

そういうの無い？
だって人って、とってもお人好し。
他人を思いやって、気にして、追いかけて。

ふるふると。
きっと迷惑じゃないよ。言って良いよ。
じゃないともっと困っちゃうよ、なんて。小龍は言う。

たくさんたくさん見てきた生と死の中で、
誰かが耐えただけのしあわせなんて、…そんなのきっとまやかしだった。と。
だから思い悩む小さな猫にせめてそれを伝えたくて。
小龍も――わらってほしいと、思った気がしたから。


そのまま咬み付いた龍は、『避けなくてありがとう』『信用してくれた』『ありがとう』と、小さく笑って―――
牙を離した。

はあ、ふう、と。
ほんの少しこてんと顔を預けて、そして上げれば小龍の口には小さな珠が生まれていた。

透明なガラス玉のよう――けれどその中に、ゆらゆらと、もやのような白が揺らめいている。
牙に銜えたまま、小龍は言った。

出来るかは解らないけれど。
一言か――それとももっと言えるか、それも使ってみないとわからない。
ただ、砕けてしまうだけかも知れない。けれど。

彼の魂の声に共鳴して、もしかしたら――もしかしたら、彼の一番「こえ」を伝えたい人に、
彼自身の声を伝えられるかも知れない。
そんな、龍のちからの一端。

銜えたその珠を、彼のてのひらにそっと差し出そうかと。
龍の口から零れ落ちるそれは、水滴も無く穢れも無く――

ただ、淡く。

キッ、とにらんでかまえました。

この先を知って尚？とは――愚問か。問わず、止めず。ならば、

せめての言葉――息災であれ、と。

手をぶんぶん、しっぽをぶんぶん―――

たちどまってうつむいていましたが――やがてかおをあげると、きもちをいれかえるようにぼふっとほほをたたきました。
いちどだけ、おおきくしんこきゅうして――

　　　　　　真っ白な子犬がお買い物籠を咥えてやって来る。
　　　　　　籠の中には170PSが入っていた。

　
サンドイッチ用のパンにバターを塗り、少々のマスタードとブラックペッパーを散らす。
スライスしたトマトにレタス、そしてツナペーストを挟んで、形を整える。