その場に滞空し、沈黙したままのオウラスへとゼゼは短く言った。

　今日。ゼゼはオウラスを解約する。
　先程そうオウラス自身にも告げた。決心は変わらない。

　解約そのものは初めてではない。以前、相性の合わなかったフラウを解約したこともある。
　ただ契約して間もなく解約したあの時とは、積み重ねた時間が違う。

　オウラスは四番目に契約したエンブリオ。付き合いではパキラの次に長い。
　
　その火の威力と、冬場の暖など色々と助けられた。時折火薬をねだってくる妙な嗜好をしているが、契約したエンブリオ達の中ではおそらくコリトに次ぐ常識派だ。その分付き合い易い相手でもあった。

　そういう奴だと、理解出来るだけの時間を共有した相手なのだ。

　エンブリオとしては当然。その言葉が浅くゼゼの胸に刺さる。

　オウラスの言う通りだ。これがメルンテーゼの常識だ。一揆にて初めて訪れた者たちでさえ行っているこの世のシステムだ。

　だが。ネクターの花自体が貴重なゼゼの故郷では普通は一体。多くとも三体が最大であるため、解約など贅沢の極みだ。それが呵責となっているとはゼゼ自身も少なからず自覚はある。
　そして何より、使い捨てているという感覚。それがひどく後ろめたい気持ちを呼び起こす。

　オウラスはそんなゼゼの心情を汲んだのであろうか。ゼゼの顔の間近にまで飛んでくると、火薬の香りと共に元主へと語りかける。

　周りをヒラヒラ飛びながらオウラスは尋ねる。羽ばたきに、赤色の羽から火薬の香りのする鱗粉がほのかに舞い上がる。
　役に立ったか？　そんなの当たり前だ。

　オウラスは小さな身体をゼゼの目線に合わせて止まり、満足げに頷いた。

　記憶を掘り返すと、確かに一言も言ってはいないが……

　オウラスから仄かに赤い光が溢れ出す。微量とはいえ周囲の熱が上昇していると鱗が感じていた。

　――本当に口にしたら、それこそ丸焼きにされそうだ。

　小さな赤い輝きが、竹林の空にふわりと舞い上がった。

人間向けの市販品では収まりの悪い尻尾をぱたぱたと振りながら。

（菌の殖え方については、あまり詳しくないようだ）

（わがままである）

高望みだろうが、という呟きは二人に届くかどうか、小さく消えた。

有り得なくはない事態だ、と考えているようだった。

校長先生の朝礼でのお話並である。

どうも、一揆側に対しても不信感を持っているようだった。

退屈している竜をメルンテーゼに呼んでみれば、と言われて。

なんとない言葉ではあるが。
ゼゼはその言葉に、人に対しての不信感があると感じるかもしれない。

寿命があるのかどうかもよくわかんねぇし。
そう呟く。
実際、青年は未だに寿命で消滅した個体を知らないし、見たこともないのだ。

などと語れば肩を竦めてみせる青年である。
繁殖可能な状態になるのも成体になってからだし、と続け。

悪いな、と申し訳無さそうに小さく笑いながらも。
ランプを受け取った。
材質を確かめるように軽く掌の上で転がしつつ。