花や果実を主な糧とする花喰い鳥達は、
喫する茶もまた花や香り草から作り出す。
野や森へ出て、茶の為の花や実を摘むのは彼らの生活の一部であった。

花茶の事を話すと、ユキナの弟のミルザが随分興味を示したので、
久々に草原に進んだ朝、卯の花腐しはミルザを誘って
茶の為の草花を探しに出かけた。


たくさん教えてほしいとミルザは言ったが、
実際薬草に詳しく勤勉な彼に、卯の花腐しが教えてやれることは殆どなかった。
しかし花を一輪示すたびに目を輝かせ、
葉を一枚示すたびに本の記述と熱心に見比べる様は、
やはり年相応の子供らしさがあって、卯の花腐しは少し安心した。

（彼はその聡明さ故に、どこか傍観したり、冷めているように思える時があったからだ。
快活で無邪気な妹の傍らにいて、大方それは影を潜めたけれど）


茶の為の花を摘むのは故郷から旅立って以来で、
誰かと話しながらこうして花を探していると、何だか酷く懐かしいような心持になる。

またミルザを誘い出したいが、
流石に何度も兄を借りては、妹のコロナに拗ねられてしまうだろうか。
さしあたって食いしん坊な彼女の為に、野イチゴを幾つか集めながら、
二人は野営地へと戻った。

風は夏の嵐の気配を孕んでいる。

この日の夜、若者は風夜見鳥の燭台を手に提げ、
砂漠に一夜だけ咲く花を探しに出かけた。
振り子の占いでは「NO」と示されていたが……。

100面ダイスを振り、出目75以上で月下美人を発見。
燭台は夜道を導く。20面ダイスのボーナスを加算。
1D100 = 96 ( 96 ) + 1D20 = 14 ( 14 )

時折岩陰を覗き込んだり、熱気に揺れる地平線を眺めている…。

ヴァルに向かって、抱きつくかの様な雰囲気で両手を上げて走ってくる。
しかしコロは、隙を見て両脇こちょこちょしてくるつもりだ！

安堵と、依存している自らに戸惑いを覚えながら、
卯の花腐しの隣に腰を下ろした。生い茂る下草が心地よい。

絡みつく草か、指先かに、確めるように自らの手指を重ね合わせていく。
水が近付けば火の気配もまた同様に。熱に当てられた花の香は一層濃く深まってゆく。
草地に揺れる蝶の影を見つめながら、卯の花腐しの言葉を静かに聞いていた。

清冽と焦熱を交感しながらも、以前のような痛みは無かった。
――何の問題もなく、触れられている。

その事に若者は少し驚いていたが、すぐに理解に至ったのか目を伏せる。

今、自らが触れているのは、彼の指先であって欲しいのだろうか。
ロラマンドリの、人肌で触れれば火傷するほどに熱い涙が、若者の瞼から溢れてきた。
いつもと変わらぬ表情のまま、その一筋が走る。

空いた片手が、涙の跡の残る、自らの頬を押さえる。

夜闇が世界を支配する頃、
火精は肩に身を預け、寄り添うように、花喰い鳥の横で寝息を立てはじめるだろう。
もし突き放すなら起こして告げるか、次の逢瀬の時が良いかもしれない。

そう言いながら近くへと来ると、傍らに槍を置いて座る。

そう言い、右手を相手へと差し出した。