（長い――
（長い夜だったように思う

（はじめてアンジニティで目覚めたときにも、
（こんな空白があった

（――まず

（はじめに
（『私』という語が思い出された

（『私』
（『私は』

（『何』？

（『私は』『何だ』？

（その呻き声のような少ない言葉から
（私は私を取り戻しはじめた

（『私は』

（――『誰だ』？

（私が『私』というひとりの人間であることを知覚したとき――
（ひとつの声があった


（――『ユベール』！


（私は
（それが自分の名前なのだと思った
（訳もなく

（『ユベール』、

（他にその響きに相応しい人物のあることを疑いながら

（『ユベール』……

（私は
（ユベールなのだと

（『ユベール』、

（それは言わば『呼び掛け』だった
（呼ばれている
（私が――

（――誰によって？

（『ユベール』

（その声は年々弱まってゆく

（『ユベール』、

（私は知っている
（その声に応えたならば
（たちどころに物語が激変することを

（――知っている

（そう、
（私は知っているのだ

（それが
（孤独から脱する魔法の言葉であることを

（知って

（知っていて――

（それでも





（『ユベール』

（『頼む』、

（『返事をしてくれ』

（『応えてくれ』

（……――『私の』

（『ユベール』！