散る羽毛に見えた白い光は、払おうとしても払えなかった。指を何度か動かして、どうやらその白光が視界にこびりついた、拭えない暗点らしいとようやく合点した。眼球のどこかで血管が切れているのだろう。エンブリオは生命力とともに契約を結び、私は肢体のあちらこちらをその住処として明け渡していた。眼も例外ではない。夜気に冷えたスキットルを瞼に当て、それで初めてずいぶん瞳が熱を持っていたことに気づく。瞼を閉じても視界の羽毛は消えなかったが、開けていた時よりは楽に感じた。

何度目かのひとりで過ごす夜に、ついて回る不安は見張りだった。夜通し起きているわけにもいかない。物音や光のかすかな揺らぎであっても聞きつけて夢の淵から上がるほどには浅い眠りだったが、それでも息を殺して忍び寄る敵への対策は鈍い。せめても獣の火を避けることを信じて、紙巻をくわえたまま目を閉じることにしていた。眼球は見つめることに疲れていたが、不規則に抑えがたく震え、安らぎは遠かった。繰り返すルヴナンに私の瞳は常に視野で結びきらない像を捉えようと身じろぎを繰り返す薬理の付き人を伴っていた。

手を広げると指先の隅々まで意識がめぐる。これは私の手だ、とくっきりわかる。見ずとも、その存在と輪郭を内観する。心裡の眺めは時に光より確かに形態を伝える。

階段を下りたほうがいいのかも知れない、と、理性が云う。そのほうが出会うべき相手に出会えると。そんな調節は糞食らえだ、と、魂が云う。この革命の先端で、深部で、目の前に足場があって、足をかけることができる、それでなぜ躊躇うステップがある？　そうした私の熱情はしばしば革命を進める具体的な戦略筋と食い違った。ひとつの戦場を前に、退くか進むかを決めがたい時、どうしても飛び込もうとする革命者の呪わしい魂がある。しかし、その目の前の牙を突き立てるべきものと戦うことが、必ずしも革命の成功へつながる道でないこともある。革命者としての私はいつもそこで魂を飼い馴らし、理路を立て、革命の客観的で怜悧な筋道を心に描いてきた――けれど今は少し違う。滝壺へ身を投げることを私は私に赦している。捨て鉢なわけではない。諦めているわけでもない。ただ、少しは情理という名の犬の曳き綱を外してみたくなったというばかりだ。それを止めるヤールやフィガロでもない。ましてやルリアンナでもない。この革命軍はあまりに統制を欠いているので、私たちのような瑣末の突端がどうした針路を選んでいたとて、誰もそれを気にかけはしない。この革命には奇妙な自由さがある。どこか祭りのようでもある。

王城前でラルフと顔を合わせてから、三十日が経った。いまだに革命の成就する気配はない。革命に納得の行く答えも聞き出せていない。ルヴナンに過去の革命を参照し、過去の挫折を体感し、過去の失着を追想する、そのどの眺めにも、革命の次に現れる権力を、解放のあと拍手とともに迎えられる耐え難い抑圧を回避できた手がかりはない。そのたびごとに違う悲惨が、とうに笑劇として舞台に現れる。永遠、という言葉も、強い下腹部の痛みの前でははかない手触りをしか持たない。内蔵を傷つけすぎている。長くはもつまい。それは知れている。私の死は避けがたい。私が望むのは、死の意味づけだ。革命という名の滑車を取り替え引っ替え回す狛鼠の一匹に過ぎない命だったとは、思いたくない。永遠が死で途切れるのなら、永遠に向けて運動する途上で途切れたその亡骸には意味を与えなくてはならない。すべての死者たちに名を与えねばならない。