ししょーやセバスチャンとふたたびであい、ようやく猫にまえとおんなじえがおがもどりました。

ですが、これでおわったわけではありません。
なんとか猫のちからをおさえるほうほうをみつけなければいままでとなにもかわらないのですから。


「おめぇ、あの・・・・・例の件について色々調べてたんだろ？何か使えそうな良い方法ねェのか？」


ひととあくまのえんぶりおのまざりものなのだとはじぶんでもしっている猫ですが、それいがいのことはきおくがもどらないこともあり、どんなそんざいなのかくわしいことはなにひとつしりません。

そんな猫にきづかってかことばをにごしながら、ししょーがセバスチャンにたずねます。


あごにてをあててかんがえこむセバスチャン。


「そうですね・・・・・ですが、私よりもまず聞くべき相手がいるのでは？」


「あァ？誰だそりゃあ？」


「決まっているではありませんか。」




















「――それで、我のもとに来たというわけか。」


しずかにそうつぶやいたのはおおきなあくま――サタンさまでした。


「ねぇねぇ、だれなのこのあくまさん？？」


『サタンさまなのです！小生とけいやくしたあくまのエンブリオさんなのです。』


「ふぅん、そうなんだっ！！ぼくのせんぱいってことかなっ？」


猫とシュテルンがよこではなしているのをしりめに、ずずい、とししょーがこわいかおをしてサタンさまへとつめよります。


「大体おめぇがこの馬鹿に変な事吹き込んだせいでこんな面倒くせェ事になってんだぜ？」


それでもサタンさまはすずしいかお。


「――だが、事実だ。」


「事実だからって何でもかんでも言やぁ良いってモンでもねェだろ！？」


「そうか？その結果、原因も何も分からぬまま知らぬ内に愛すべき者達を傷つけても構わないと？
後に自分が原因だと分かった時の絶望は計り知れまい。」


「――ッ！！」


きっとサタンさまのいうとおりなのでしょう。
かりにもしそうなったとき、猫がどうなってしまうかてにとるようにわかってしまい、ししょーはことばをつづけられませんでした。


『…小生は』


ふときづけば、さきほどまでシュテルンとはなしていた猫がかおをあげてししょーとサタンさまをみつめていました。


『小生は、しることができてよかったとおもうのです』


そのひとみは、いかりもかなしみもなく、ただひたすらまっすぐに。
そんなかおをされてしまっては、ししょーもおこるわけにはいかなくなってしまったようです。
いらついたようにがしがしとあたまをかくと、おおきくためいきをはきだしました。


「ったく・・・・・まァ、おめぇがそう思ってんならもういい。
――それで、だ。要するにこのクソガキの力を暴走しないように抑えりゃ良いんだろ？
何かないのかよ、えぇ？悪魔さんよォ？」



「・・・・・無い。」


『！？』


しずかにいいはなったサタンさま。とたんに猫はふあんをかくしきれなかったのかちょっぴりなきだしそうなかおになりました。



「ない・・・・・ってそんな事ねェだろ！？何か有る筈だ！！なァ、そうだろ！？」


こんどはあわてたようすでししょーはふたたびサタンさまにつめよります。
いいきったままじっとめをふせっていたサタンさまでしたが、ようやくおもいくちをひらきました。


「・・・・・正確には、分からない、といった方が正しいだろう。
幾らこの者の半身が我が眷属とはいえ、もう半身は人の子。不安定なその力を我の力のみで抑えれば破綻するのは目に見えている。最悪の場合、力を抑えるどころか命を落としかねん。だが――」


「何か有るんなら勿体ぶってねェで教えろ！！」


イライラしたようにししょーがくってかかります。


「我一柱の力では不可能でも、複数の力を絡めて構築すればあるいは――」


「それなら俺の力を使え！！」


そうさけんだししょー、ですがしずかにサタンさまはくびをよこにふりました。


「この者は悪魔と人に加え、異様な術も絡み合って構成されている。並のエンブリオの力では不可能だ。」


「何だよ・・・・・クソッ、何かないのかよ！！」














それまでだまっていたセバスチャンが、しずかにくちをひらきました。


「――ひとつ、心当たりがあります。【調査】の際に耳に挟んだ噂なのですが――
この城の地下牢、その最深部には悍ましき姿の者がいる――定命の理を超越した死の王が。」



ごくり、とだれかののどがなりました。



「先刻挙げられた坊ちゃんを構成する異様な術の中の一つは死霊術の応用です。死を統べる王の力を得ることができれば大きな助けとなるのでは？」


「確かに死の王ならば力としては申し分ないだろうが――果たして本当にいるのか？
それに、これはあくまで可能性だ。仮に死の王の力が得られたとしても確実に力を抑制できるという保証はないぞ。」


「――今は何だっていい。可能性があるならそれに賭けるだけだ。」


ぎもんをなげかけるサタンさまをみすえながら、ちからづよくししょーがこたえました。



「――おめぇはどうだ？」


くるり、とふりかえって猫のほうにむきなおります。
じっとかんがえていた猫でしたが、やがて、


『…小生も、ししょーとおなじきもちなのです』


しっかりとうなずきました。



「――そうか。ならば首尾よく死の王の力を借りられたのならば再びここへ来るといい。我も力を貸そう。」


サタンさまは猫にむかっていくらかやさしげにこたえました。


「何だ？悪魔の癖にやけに優しいじゃねェか？」


「当たり前だ。この者は我が眷属であると同時に我が主でもあるのだからな。主の意思は尊重しよう。」








「そうかい、――じゃあ決まりだな。逢いに行こうぜ、死の王とやらによ？」

黒猫のもふもふの小さなお手手のガッツポーズに、思わず、怖い顔から優しい笑みがこぼれます。

かわいらしいロク＝リクくんにおとなっぽいと言われて、お兄さんはなんだか嬉しそうです。

――お兄さんは、てくてくと森の中を歩いて行きましたが

トカゲの体のお兄さんの、身体に沁みついた野生の勘が働いたのか、
ちょっと耳をすませるだけで、背後から物音が聞こえます。

敵だったら大変だと思い、お兄さんは、意を決して、

明らかにノリと雰囲気に酔っているだけのようだ……。
調子に乗って体を変形させて作った葉巻を銜え、10000PSを火種にレッドドラゴンに火をつけさせた。
メラメラ。

最初は半ば本気にも聞こえたが、言い続けているうちに楽しくなったのか、「うははははは！」と笑いつつ思いっきり叫んで見せた。

ししょーに睨まれてもピンと来ていないのか、○ω○　←こんな顔で「？？」を浮かべている。

ついにはロクと並んで囃し立てる始末。

突然涙を零す小さな猫に、思わず目を見開いた。
驚いたようでもあり、どうすればいいのか――でも、その手を離さないまま、小さな猫を見続ける。
それから、えへへっと笑って、なおさらぎゅっと手を握りしめて。

心から泣くことを、龍はまだ知らないけれど。
その小さな身体を小龍はぎゅっと抱き締めて。

ぎゅっとして、顔を見ないまま小龍は続ける。

だってロクはこんなに優しいもの。苦しんで、それでも頑張ろうとしてるんだもの。
小龍は言葉を続ける。
初めて出会った自分では無く、彼にも友達とか、大事な人とか――と。

小龍は必死に必死に考える。
「命令」一つで命を奪う龍ながら、それとは「違う」思考回路を持ち、そんな風に「回収」されていったたくさんの命達を思い出して。
でも――それを罪悪感と思わないようには出来ているけれど。そして、

言えばふと、頭を下げ、彼を抱き締めたままその小さな肩に牙を宛てる。
もし逃げなければ肉体の内側に触れられるような感覚が――それが、不快感か、それとも別の感覚を産むかは解らないけれど。

もし、端的に言うならば『魂』という根源にすら触れられているような――

うごかなくなったゾンビにむかっててをあわせながらめをとじ、しずかにいのりました。