疑わなければ人形と同じじゃ。
しかし、全てを疑っていては何もできぬ。
では、何を疑えばいいのか。

こんな話があるな。


調べる対象が何であるかを知らなければ調べることはできぬ。
（だってそうじゃろう？
調べる対象が何であるかを知らなければ、見た目も名前も知らないものを探すようなものじゃ）
だが、調べる対象が何であるかを知っているなら、もう調べる必要はないではないか。


……この話を聞いて、お主、どう思った。
なんとなく不思議な気がする？
それで？
それだけ？
……そんなあやふやな感想しか言えぬからお主はだめだと言うのじゃ！

お主の感じたその『なんとなく不思議な気がする』
それこそが、まず疑うべきところなのじゃ。

言い方を変えれば違和感じゃな。
戦いの中で覚えた小さな違和感に、お主は何度か命を救われてきたはずじゃ。
わらわとはぐれていた、その間も。

全てを疑っていては何もできぬ。
それは命に限りあるものの、文字通りの限界じゃ。
途方も無い思考時間と試行時間を費やせば、起こりうる全ての可能性に対処しうる。
実際にはそんなことは不可能じゃ。

では、何を疑えばいいのか。
何を信じればいいのか。

お主の経験を信じ、お主の怠惰を疑うのじゃ。

積み重ねてきた経験は裏切らぬ。
表立つことはあってもな。

お主の怠惰はいつもお主を裏切ろうとする。
お主に『このままでいいのだ』と、安定した道を進ませようとする。
安定といえば聞こえはいいが、それは行き止まりの道じゃ。
思考も、試行も停止させる。

※料理の完成は第30回頃になります。

のろのろと顔を上げるクラガの腕から赤黒い焔が立ち上る。それは獣へと姿を変え、具現化した。