愕然を音で現した声音。
其れでいて時折ハンカチイフの角が裏返るような違和感。
既視感に苛まれ乍違和を探る。
見せかけだけ同じピースは、見詰める程にその場所に嵌らない。

「落ち着いてください…とは、今度は言えませんが、―――違いますよ、【Master】」

つい先程の自分の言葉を繰り返して苦笑した青年は、とある呼称を使う。
契約故にレミエルの耳でなく、身体の内側から響く低い声に動揺が急速に落ち着き、
そうして凪が訪れる。些か強制的な凪ではあったけれども。

「シュライク。」

端的に否定を紡ぐ青年の目元は、
その口調の落ち着き故か本来の彼よりも幾分大人びて見えた。

一度気づけば、青年の額に一角状の靄が透ける。
溜息と共に与えた名を呼ぶ少女の、睨め付ける視線は既に大分力を失っていた。
悪夢から続く感情の起伏に、正直に疲弊しているのがわかる。
その姿を珍しいとエンブリオは思う。
ひとつきで知る主人は、限りなく捻くれ者である事を知っていたから。


「…人型を取れる、だとかいう単純な理由じゃないでしょう、それ。
　なんのつもりだか説明しなサイ。」
「改めてお詫びを申し上げます。言い訳にはなりますが、何分、急ぎました為。
　謂わば、クロゼットの中で一番近い姿が、此方でした。そして遅刻しそうでした。」

丁寧な口ぶりから唐突に漏れる、生活感溢れる例えに毒気が少し抜かれたようで、
少女の双眸が緩く大きく一度瞬く。

「なァに…その例え。」
「【Master】にはこういった例えが伝わるかと思いましたが。」

日頃の生活の慌ただしさを一片の悪気なく指摘され、眉間が撓む。

「ウルサイわね。オンナの朝はやるコトが山程あって忙しいのよ。
　つまりその、…姿が服のようなものだと言うのね。着替えなさい、今すぐ。」
「着替えは出来かねるようです。」

は？との、少女の声は先に続く苛立ちから荒い。
時間を鑑みてか口許に指先を当てる仕種で遮って密やかな声は続ける。

「一度外に出てしまいましたら――何ともうしますか、そう、返品不可であるようです。ね？」

一々その例えは何なのかと言いたげな胡乱な瞳がエンブリオに向いた。
彼自身確かめているかのような、曖昧な口振りが次の問いの気力を削る。

「…、」

再度溜息が零れた。幼女の首から指が解ける。
自身の衝動を目の当たりにすれのはバツの悪いものだ。他者の目なぞ尚更の事。
醜い事は承知している。ずっと、其れを持ち続ける自分自身がそれ以上に。
悔しげであり、苦しげでもあった。加害者であるのに眸は頼りなく揺れる。
その時幼女の息遣いが漏れた。掠れる声が、如何にもひとらしい。

「―――で……、」

幼女の声を察したか、シュライクが片眉を跳ねる。
失礼と一言断りを入れて、レミエルの指を退け幼女を引き出し、
そうしてかぶせられた布の上から指でその子供の唇を封じた。Si。漏れる制止音。
軽々と青年の手に渡った小さな身体は、戸惑うように隠れた顔を青年に向けた後
―――誘導に気を誘われて霧散する。淡い光に。
見覚えのある淡く甘い白色。


ふうわり、羽根がはばたいた。



「そういう事。キミが庇ったのも…」
「ええ。…そういう事、です。My Master。」

薄蒼の光を纏う存在は、苦笑を強めた。


---

ねェ、キミそろそろ出てこないと、捨てちゃうわヨ？


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――すてないで。



『…すてないで。すてないで。いいこにするから…』

両腕を大きく横に広げ、手のひらは上に向け、ついでに顔でも天を仰いで、こ　こ　に　は　味　方　が　い　な　い！　のポーズ

エンブリオ達はこくこくと頷いて

などとのたまっている

そういってメモを取りつつ、何か考えている様子

あとは、と考えながら、際限がないように出てくる服に目を丸くして

あーそういう花とかのデザインが入ったのはいいね。凄いこのミナ感じがする

と喋っていましたが、ふと

と感嘆の声をもらし

　ジャックは体を全力で伸ばしてぺちゃんこになって、前足を差し出した。

言って、今度は息を吹きかけてから液体を啜り。

ガサガサと音を立てた茂みから、男女の２人組がひょこりと姿を現した。
以前、サーカスの一座と共に一度だけパーティを組んだ２人組だ。

２人組の間を割るようにして現れたのは、
妙に騒がしく馴れ馴れしいオネェ？ ……らしき人物。

そう言ってディアは目の前で淡い桃色のコサージュを
ものの５秒程で作り出すと、はい、と差し出してみせる。

ハートを豪快に撒き散らしてから、
ディアはにんまりと含み笑いを浮かべた。