先ほどの感覚には覚えがある。
其れが何だったか、一人合間に首を傾げる。自分が無意識に取った行動をなぞる。
まるで―――盲目の人物に空を教えているような？

そこまで考えてひょこりと首をかしげた。

最後の言葉を聞いて、笑い出した。堪え切れないと言ったように。
其れは突き放した様子では無く、幾分の親しみが漏れる笑みだった。

くく、と喉を鳴らして笑いながら、ひらひらと軽やかに手を振る。

ちいさなオンナノコはまだ戻ってこない。

月を仰ぐように、ソレは匂いを辿っていた。
天幕の影の誰かが自分について話しているなんて、人あらざる耳をしても聞いてすら居ない程に。

ぷすぷすと匂いを嗅ぐのに夢中だった為に、出てくる人影が見ればきっと、首を傾げたり、尾を揺らしたり、小動物のような動きをしていたことが見て取れただろう。
人の髪を持ち、キツネのような耳と顔つきに似て。
しかしどこか違う。
片角、小さな翼、ゆるりと伸びる尾―――

その片耳が跳ね上がったのは、足音を聴いたからだ。

歩いてくるその一歩一歩にびびくっと縮こまる白い影。
ぱたぱたと辺りを見渡す様子は隠れる場所を探しているようだ。
態度は捕食される小動物。さて、声をかけられたソレはというと、

彼の優美で落ち着いたその挨拶も何のその。
それはまるで気が弱すぎる子供そのもの。――加えて言うならば、失礼な事も纏めて思ったことを口に出してしまう所も子供じみている事だろう。
ぴぃっと小さく鳴きながら、慌ててこくこく頷いて。

ソレは一瞬停滞した。
それから出された言葉は稚拙なまま――ただ、その言葉自体は彼の根源を問うものだった。
停滞した時、まるでソレは誰かに言葉を仰ぐような、それからの言葉は誰かに伝え聞いているかのような、そんなちぐはぐさ。
しかし言葉の途中でソレは止まる。
さりげにぼそっと言ったのは、自分の言葉を否定していた。
そしてソレはほんの少し逡巡してから、むうっと眉間に皺を寄せ考えて――

――とても簡略化された問いを投げかけた。
遠慮も、悪気も、まるでその感情を知らぬようにその声色には含まれず。

全く以て失礼なものである。

奇術師はチーズを取り出した！