いつも、夢の中で出会う、ひと。

顔も、男の人か女の人かも、背丈も、年齢も、何もわからない、もしかしたら人でないのかもしれない人。
しゃべろうとしても、声も聞こえない。何て言っているかもわからない。

でもその人の言葉がわからないのが、すごく、すごく悲しい。




だから。

長い眠りから覚めたときは、……すごく胸が痛くて、痛くて。
起きたばっかりはわけもわからずさみしくて、泣いちゃうのを、リオンに見られてないといいなって……思うよ。

この前逃げられてしまったのに気を使ってか、余り急に近づかないようにしながら。

そういう手には、小さな小包が握られていた。
ふわっ、と焼き菓子のいい香りが漂う。

いじっている手に巻き付くように尻尾を動かして軽く包み込み揉み込むようにもふもふする。

ひょいっとジュリちゃんの目の前へ紅い花を差し出す

　自分のことは誤魔化して。さりげなく、差し出された手指の柔らかさや温かさを確かめる。
　それらは確かに、ごく普通の人間と同じように思えた。

　――リオンから彼女の食事の話を聞いていなければ、上辺だけで判断していたかもしれない。

　見通す能力は高くないが、「命の形」がどことなく歪であることは読み取れる。
　そもそもネクターしか食べられないということは、エンブリオと同種の何かだということにならないか。

　知識が足りない。自分が遭遇した過去の物語から似た事例を探すが、焦りもあって上手くいかなかった。
　ただ、脳裏に浮かんだのは、偽札という言葉。
　とても精緻に作られてはいるが、当面の危機を乗り越えることだけが目的であるかのような。

　妖狐はわずかに厳しい眼差しを見せたが、すぐに表情を崩して優しいお姉さんの顔を造る。

　本能的に、これが遊びよりも大切な話だと理解しているのだろうか。
　聡明さを増した少女の反応に、狐は驚きを見せ。

　リオンからは「ここだけの話」として、彼の知るある程度までは教えられている。
　いかに悪戯好きであろうと、あの小狼との約束を反故にして伝えるのは躊躇われた。

　だが――、

　そう告げたのち、身を乗り出して、気になっていたことを確かめておくことにする。