弱者の得物に注意せよ。

　“人の世界に非ず”と彼の者は告げた。
　城内どこへ行っても立ち込める陰の氣、鼻につく死の芳香。
　新王は、生者なのか？　それとも、別の何かなのか？

　その中でまともな人間の気配があって安堵していた矢先だった。
　試練を与えるという前王の娘や、その側近。そして人ならざる白い騎士。あれはなんという存在なのだろう？
　訊くに、その名は戦死した魂を天上へ誘う者、という意味があるらしい。

　もし私が死んだら、ああいった乙女が神の国へ連れて行ってくれるのだろうか。
　死後も戦い続けられるのは些か魅力的だが、現世の美味い飯の方が勝るな。

　そうそう、やっと衣服を新調することが出来た。
　執事の者にいいように言われたが、事実は事実。
　カマック殿も快諾してくれたことだし。

　韮市でも色々と美味しいものにありつけたし、気力も十分。心機一転。
　協力してくれたネイ殿と、スィナン殿（両者共タラセドの所属だったようだ）には感謝してもし切れない。
　誘ったなりに手配はしたが、やっぱり不手際はあった。それでも楽しかったなあ。

　ここに来てから、想像もつかない体験ばかりで驚きの連続だ。
　とはいえ女王殿のように常に観光気分で居られるほど、まだまだ肝は座れない。
　今日は体が重い。早く寝よう。

装束の派手な男が、貴方の元を訪れた
手には、見覚えのある品物がある

そう言うと、じゃあな、と手を挙げて去っていった
その背にはまだ幾らかの荷がある
おそらく他へも届けに行くのだろう

それ以上、その食べ物？らしき物体について言及するのはやめた。

『マンボウクッションで踊りながらのイトグルマ式メルンストゥーラ占い』…
その言葉を聞いて、ネイベールの表情が笑顔のまま固まった。

ぱん、とナスルの肩を叩く。

そう言うと、煙を大きく吸い…ナスルに向かって吹きかけた。

　ナスルは無言で目前の騎士を見つめている。
　表情から色は失せ、しかし思いつめたように視線を時折どこかへ飛ばしている。