イブリスホームの創設者、アレクサンダー・イブリスがお父様だったことを知り、
私は孤児院の裏にあるお墓の前に来ていた。
もちろん中にお父様がいない事はわかっているが、
領地に戻る事は出来ないので代わりではあるがお墓参りしているわけだ。


それにしてもまさかアレクサンダー・イブリスがお父様だとは思わなかった。
肖像画が孤児院に飾ってあるが、あまりにも似ていなさすぎて今でも半信半疑である。
むしろあの肖像画はいったい誰なんだろう？


確かに思い出せる記憶の断片の中にお父様と一緒に孤児院で暮らしていた事はあったが、
それが偶々逃げてきた此処だったなんて、まさに奇跡としか言いようがない。

街で買ってきた花束をお墓に供え、そんなことを呟く。

そう、奇跡とは言え納得いかない事が一つあった。



――何故、自分の領地を離れて、こんな辺境な森で孤児院などしていたのか。



お父様に限って、私みたいに亡命して逃げた先が偶々此処だったなんてことはないだろう。

そもそもまずお父様が亡命する理由が見当たらない。
お父様はその腕と頭脳を買われ、王であるアスモデウスの側近として仕えていた。

そんな人が理由もなく領地を離れるだろうか？


私だったらそんな事はしない。



これはあくまでも私の推測でしかないが、
此処に来ていたのはアステマ・ファム関連だろう。


それは何故か？
幼い頃・・・と言っても孤児院で過ごしていた頃よりだいぶ後で、
お父様が亡くなる少し前の話だ。


サタナエル家の魔剣についてお父様に尋ねた時、お父様は悲しい顔をしながら、

『あれは危険な物だから、二度と使われてはいけない。』

なんてことを話していた。


そして、昔寝る前にお父様が話してくれた『戦争』の話。
後々調べてみると、シルグムント独立戦争のことだと分かり、
そこでお父様はアステマを使ったという記録が残っていた。


イブリスホームが創設された年と、シルグムント独立戦争が終結した年、
どちらもおおよそ200年前で一致する。

つまり私と同じでお父様もアステマを使い、その恐怖に怯えた。
だから、アステマを破壊もしくは封印するためにコーネリア領を離れ、
此処で何かしていたのだろうと私は推測している。


そして、それに関わりがあるであろうイブリスホームの七不思議のひとつ。



『イブリスホームには、もう百年以上居続ける子供の伝説』



そう、リヴァランの事。
彼は自分の事だと言っているが、真偽の程は定かではない。
だけど、これがもし本当にリヴァランで、百年以上生き続けているのであれば・・・。

だけど、普通の人間が百年以上生きているなんて考えられない。
私達妖魔であれば話は別だが、リヴァランはただの人だ。


不老の薬？・・・そんなものがあれば我先にと王族が求め、争いが起きるだろう。
しかし、そんな話も聞いた事はない。

あの時、アウレリオ派の拠点で私を庇った時のことだってそうだ。

リヴァランが知っているはずない、私の本名で私の事を呼んでいた。
意識が朦朧としていたけど、その事はハッキリと覚えている。

先日作ったチョコを渡すついでもあったのでリヴァランの部屋を訪れた。


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さて、これはあくまでもついでだ。
本題に入ろう・・・。

ウィスキーボンボンを一つ口に頬張り「うまい」と言った後、不思議そうな顔をして答えた。

これは嘘ではなく本音。

ここで一息置き、リヴァランの目をじっと見つめた。



――私以外の名前を呼んでませんでしたか？





一瞬、ほんの一瞬だが、空気が変わった。
意識していなければ気づかないほんの一瞬。

・

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断片になっていた記憶が少しずつパズルのように埋まっていった。

幼い頃の記憶。

初めて人に作った料理がお菓子だった。

そのお菓子は初めてだったから少し不格好だったっけ。

でもそれを美味しいと言って食べてくれたあの子。

自然と笑みが零れていた。


今日は本当にいい天気で、絶好の洗濯日和だった。
気分がいいのか鼻歌もいつにもまして絶好調だった。

そして孤児院には断末魔が広がった気がするけど、今は気にしないでおこう。

※22日目の日記の時間軸より前での返答になります。

　

マリアの顔を怪訝な、でも心配そうな顔で見る。

ギリっと歯軋りしながら、視線はマリアの胸にシフトした。

久し振りに見たシスターの姿に思わず声を上げて駆け寄り。

頭の天辺からつま先まで見て様子を伺いながら、取り合えず無事な様子にほっと胸を撫で下ろす。

前より高くなった目線で心配げにマリアの顔を見つめる。

そう言うとふわりと微笑みを浮かべ。
そしてマリアの言葉に真面目な顔になり、透明な空色の瞳でマリアの瞳を覗き込む。

マリアの手を取ろうとそっと手を伸ばした。

呼ばれた方を振り向くと含み笑いを見せながらちょこんとお辞儀を返しました。

女神の園を歩いているとサッと隠れる人影を見つける。

その人影は顔を出し、気がつかれたのが分かるとゆっくりと出てくる。

銀色の髪の少女サニーであることは分かるが、近づいてはこない

遠くで表情はあまりよく分からないが、こちらに目線を合わさないようにしているのは分かる。