王城前、城下町。
一揆が始まって3週間以上が経過した今でも、城下町の活動は活発だ。
騒乱の最中でも流通活動は行われる。
むしろ一揆により各地に人が移動し、各地の品を持ち込んだり消費活動を行うせいか流通は以前より活発になっていた。
結果的に城下町は平時よりごった返し、祭りのような狂騒を続けている。
その街の、多くの市民が集まる広場にレーネフィアの姿はあった。

人形劇。
市民たちの前で披露されているそれは、丁度最後のシーンを終えるところだった。
死んだ主人公を演ずる人形を、兵士を演じる人形が運び出していく。
舞台を示す壇上から彼らが下りた時、劇の終わりを告げる喇叭が鳴り響いた。


■

数刻の後。
城下町の喫茶店にレーネフィアは佇んでいた。
窓際の席。　対面には、一体の少女人形が座り込んでいる。
始祖ディ・ステラ。　彼（あるいは彼女）は、その正体を現してからレーネフィアの前に度々姿を現していた。

姿を現して、何かする訳ではない。
彼を殺す手段を探すレーネフィアを邪魔するでもなく、ただ傍らに現れるのみ。

その意図するところは、レーネフィアにはわからない。
わかる気もないが。

顔を顰めながら、レーネフィアは紅茶を口に運んだ。
山奥にあるらしい紅茶の産地から運ばれてきた茶葉の、豊かな味と香りを楽しむ。
ネクターを奪われ、エンブリオの恵みが薄くなった今では品薄とそれによる希少価値が相乗効果を起こし、価値が鰻登りに上がっているという。
消費活動をしながら各地を転々とする一揆参加者のおかげで流通が活発になった事と合わせ、金銭的には豊かになった街や村もあるというから皮肉な話だ。

「……あの」

不意に横から呼びかけられて、レーネフィアは振り向いた。
声をかけて来たのはまだ幼さの残る顔立ちをした少女である。　どう贔屓目に見ても、まだ成人していない。
この世界における成人の年齢は、レーネフィアは知らないが。
ともあれ少女はレーネフィアが顔を向けて来ると言葉を続けた。

「連日広場で人形劇をしているという方は貴女ですか？　ご主人様が御頼みしたい事があるそうなので、一緒に来てもらえないでしょうか」

その話し振りからして、シオンはあくまで中立の立場からものを見ようとしているようだ。