星の降り注ぐ険しい道を、登る。登る。登る。
　ほんの数日前に見た景色と、そこは変わりない。ただ、同行の顔ぶれが、すこし違う。
　この山道の奥深くまで到達する道。募集に出されたそれを求めて、集まった面々。
　自分もまた、引率されてここに至った、そのひとりだ。

　地下牢から新たな水辺への道を見つけたとはいえ、未だ調査隊にとって多くが未踏の領域だった。
　エンブリオの研究をするにも、一箇所に留まってはいられない。一揆の障害となるべく配置された者達や、絶妙に入り組んだ構造の道筋を解きほぐさなければ、選択肢は狭まる一方だった。
　そこで、調査隊でひとつの案が出された。

　通常通り調査を進める面々とは別に、今の調査隊より先行している者から、『道』を買うことだ。

『ここでは、ほんっとに色んなものが売りに出されてるけど。この需要と供給は、知恵だわねえ』

　提案をした一人であるかの女性は、行き先の希望を纏めながら、そう笑ったのだったか。
　その彼女もまた、調査隊が求める道のりへの募集を探し出し、成果を得るべく別行動を取っている。
　何事もなければ、そう遠くなく、ふたたび全員が揃う。その時の為、黙々と山を登る。
　調査隊で身についた癖で、折に触れ、同行の人々の様子を見る。山道が厳しいのは自分だけではないことが見てとれる。致命的なものではないが、出てくる生物の危険性を考え、慎重に歩みを進める。
　いざ戦闘となれば、エンブリオは、地形のハンデすら軽く飛び越える。
　少なくとも、自分はそう思っている。

　歩きながら、自分に出来ることを整頓する。調査隊に居たから出来たこと。一人の状態で出来ること。いま、ここに居る人の間で出来ること。それはどれも少しずつ違い、そこにはあらゆる人の――たとえば調査隊の、たとえば取引で出会った人々のちからが、少しずつ宿っている。
　外套の前を軽く握る。これも、調査隊の魔女が、ここに来てから誂えてくれたものだ。防具として使うことがなくなっても、こうして羽織っていると、体温調節だけでなく、安心する。

　不安は薄い。それは、あらゆるひとから与えられたちからによる、自信であった。一方で、むやみに危険を冒してはいないはずだという、やや頼りない確信でもあった。どちらも油断に結びつきかねないが、この身がひとりでないうちは、そうそう油断はしない、と、思う。
　とはいえ、先日は失敗した。タイミングを間違えて敵の『道連』を立て続けに食らい、その所為で仲間まで巻き添えにするところだったのだ。あれは、油断にカウントすべき出来事であったと思う。
　出来ること、使える技は、それだけでは完結しない。失敗して、今度こそ身に染みたと、そう願いたい。

　その点で言えば、今回のこの別行動は、良い機会でもあるのかもしれない。
　『普段通り』の甘えが通用しない。お互い、大体どのような戦術を得意とするか、戦闘時はどのような陣形を取るか。それらを踏まえて、自分のすべきことを考え、それでいいのかを検討する。
　結果的に、普段とあまり変わらないところに落ち着いた。だが、目に見える結果は、随分違ったものになるだろう。

　今日を乗り越えれば、明日が来る。明日は明日で、必ず戦闘に遭遇する。明日の次には明後日がくる。
　皿を重ねていくように、少しずつだが、すべてが動いている。その中でなしとげたい事は、いつもとても遠い。どれもが、過ぎればあっけないものであっても、今ここに居る限りは。


　山頂に辿り着き、深く息を吐く。星の降る山の景色は、変わらない。だが、未知の生き物達が少しずつ目を覚ます。時間と共に。
　自分達の見る風景も、生き物も、すべて。時間と共に変化していく。それを裏付ける資料が、いくつも纏められている。それは明確な一日の区切りと共に、やってくる。確かな法則を持って。
　そして、折に触れ、思う。

　――はたして。呼ばれたのは、呼んだのは、どちらであるのだろうか、と。