<Days21>


「私がこの世界にいる意味、かぁ……」

　この世界に来て、出会う人からよく聞かれるのが、私が何者なのか？という事だった。
　私のいた世界とは違うこのメルンテーゼで、着ている物も違えば、ごくたまに似た様な服装の人もいるけど大半は私のいた世界でファンタジーと呼ばれるお話の中で出てくる様な服装をしている。
　最初は戸惑いがあったが、気が付くと私自身すっかり馴染んでしまったような気がする。

「きっと……この世界に私が来た意味があるんだよね」

　私自身望んでここに来たわけではなかった。
　むしろ何故今ここにいるのか、私自身が誰か知っている人がいれば聞きたいくらいだ。
　授業が終わった放課後、教室でうたた寝をした私は気が付くとこの世界にいた。
　目を覚ますとそこは一面の青い空で草むらだった。

「あんな草むら見た事無かったな……」

　たまに映画とかテレビで観た外国の草むらとかにいるような気持ちに私はなった。
　そして英語などは苦手だった私だったけど、知らないはずのこの世界の言葉もすんなり理解できて、何故か私の話す言葉も通じているみたいだった。

「本当不思議な事だらけ……だよね」

　そして私は横のベッドで寝ている少女の事を見た。

　ルシエ・ソルブランシェ、この世界で出会った同じ一揆に参加している少女だった。

　同じ宿に泊まっている彼女は、私の部屋に遊びに来てそのまま寝入ってしまったのだった。

「ルーシェちゃんも自分の世界から色々あってここに来たみたいだけど……」

　そして先程二人で話し合ったことを私は思い出す。

「私は誰かの役に立ちたいんです」

　そう話す彼女の言葉には力があるように感じた、それはどこか私が前にいた世界でぼんやりと思っていた、誰かに認めて貰いたい、それに通じているような気がした。

「考えて見ると私のいた世界って、勉強できたら褒められて認められて、できないとダメな子って思われる世界だったんだよね」

　今思うとあの頃は何とも疑問にも思わなかったことが何とも滑稽なようにも思えて来るから不思議だった。
　そして今いる世界が現実ならば今までいた世界その物が、偽りの世界なのではなかったか？などとも考え始めてしまう。
　確かに今いるこの世界の方が生きている実感があるのは確かだが、向こうには私の家族もいて友達もいて、それはやはり現実だったのだ。

「どっちが現実か、なんて考えるだけ意味がないのかな？」

　私は暗くなった窓の外をじっと見つめる。
　私のいた世界では、この時間でも昼間の様に煌々と明るく照らされていたが、今私の周りにあるのは小さなランプと小さなストーブによって照らされる明かりだけだった。

「こんな小さな明かりだけでも、問題無いんだから、あの明るい灯りは必要無かったんじゃないかな？」

　そんな事までついつい考えてしまう自分に思わず苦笑してしまう。
　こんな事を考えようとはほんの少し前の自分では考えられなかったくらいだった。

「まずは自分のやることっていうか目標かなを見つけないとね」
「……んんっ……」

　そう一人呟いた私の横で、幸せそうな寝顔でルーシェちゃんが寝返りをうった。
　彼女のずれた毛布をかけ直してあげながら、ふと一つの事を思いつく。

「ルーシェちゃんの人助けの手伝いをするって言うのも悪く無いかもね、今回の手伝いも似たようなものだし」
　いつも一緒に旅をしている仲間達と一端離れて今回はルーシェちゃん達の手伝いをすることになった事を思い出し、そんな未来も悪く無いかもとか私は思い始めていた。

「ふわぁ、なんか眠くなって来ちゃった……、まぁ、もう結構遅いし着替えないでも……いいよね……」

　誰が聞いているわけでもなかったが、私はそう一人確認すると予備の毛布にくるまり手元の灯りを消した。


　§§§§§§§§§§§§§§§§


「……ん……もう……朝……？」

　朝日が窓から差し込む部屋でゆっくりと目を覚ました私の鼻に飛び込んできたのは美味しそうな珈琲の香りだった。

「……ん……美味しそう……な……香り……」

　窓の外では小鳥がチュンチュンと囀っているのが聞こえてくる中、まだ寝ぼけた口調でそう呟くとゆっくりと私は身を起こした。

「おはようございます、祀さん眠気覚ましに珈琲はいかがですか？」

　そう言って微笑みかけてきたのは昨晩私の部屋に泊まっていったルーシェちゃんだった。
　前に興味を持っていたから煎れ方を教えてから、どんどん上達したルーシェちゃんの珈琲を入れる腕は、気が付くと私よりも上手くなっていた。
　彼女の差し出した珈琲を受け取ろうと手を伸ばした私だったが、彼女はすっとその珈琲を引っ込める。
　私は思わず半身を起こした状態でつんのめってしまう。

「いきなり何？やっぱり飲ませたくないとか？」
「そうじゃないですよ、祀さん自分の格好をまず直してからの方がいいかと思って」

　そう言われて私は自分の姿を見て、思わず真っ赤になる。
　どう寝ていたのか、硬い床で寝ていたせいもあるのだろう自分のシャツのボタンが外れ、思い切り前がはだけていたのだった。

「っ…………！！」

　私は慌ててボタンをはめ直すとゆっくりと立ち上がろうとすると、穿いていたはずのスカートがはらりと地面に落ちる。

「寝相が良くないってのは判っていたつもりだったけど……」

　シャツ一枚になった私は慌ててスカートを拾い上げるとホックを留めた。

「こ、今度こそその美味しそうな珈琲を頂けるかな？」
「はい、どうぞ、でも後でその寝癖は直してく方がいいと思いますよ？」

　ルーシェちゃんはそう言いながら私に珈琲を手渡したのだった。


TobeContinued……

今回の日記もルシエ・ソルブランシェさん(2010)をお借りしました、感謝！！

反射的に手を取られたがまだ少し警戒心があるみたいに警告する

少し考え込み

自分が原因だとすっかり思ってない様子である

そういって少し恥ずかしそうにしながらも表情はとても嬉しそうです。