……あ、あれ？
　ひょっとしてノリきれてなかった？
　なら、今度はもっと張りきっていっくよー！！

　これで完全じゃなくても万全でしょ！
　え、たかだか十全だろうって？
　色をのせて百全で手を打って！　ねっ！
　そのくらいないとやだやだ、やーだーッ！





　……あっ、自己紹介がまだだったね。
　ボクの名前は
　シトリン・サンサルテレスコ！
　ノリが軽くてナリはお子様でも、
　れっきとしたブラウニーなんだぜッ。
　回復《ケア》ならぜーんぶボクに任せてよ！
　みんなの傷を治すお手伝いしちゃうぞ☆

　みなさんご存知のとおり、ボクは
　「元素の世界メルンテーゼ」
　に住むエンブリオなんだ。
　……えっ？
　エンブリオが何なのか
　イマイチわかってないって？

　メルンテーゼにはいろんな力を持つ
　生き物たちがいる。
　ボクたちエンブリオは
　力を認めた者と“契約”をするんだ。
　力があるなら誰だっていいの！
　契約者の対価はちょっとの生命力と、
　契約のしるしの“ネクター”だねっ。


　
　べっつに契約なんてしなくても生きていけるんだけどさー。
　でも契約したほうが楽だし。
　世界の慣例、いわゆるシステム？
　そういうつまんないモノに縛られてる、
　あわれな存在なんだよね、ボクたちって。

　ボクはもともと家にすみつく妖精だからね。
　ザシキワラシはボクの親戚みたいなものさッ☆
　あちこちからあまったお菓子をくすねて
　つつましく暮らしてたの。
　でもでもー。新王がボクたちを
　うまいこと口車に乗せて
　森の奥ふかーくの研究棟に
　隔離しちゃったってワケ。

大地開墾撃！
ラミアAに 6878 のダメージ！
ラミアAに 10260 のダメージ！
ラミアAに 12438 のダメージ！
ラミアAに 17366 のダメージ！
ラミアAに 19579 のダメージ！





　NOUMINって凄い。

　ボクは思ったんだ。
　ゼッタイにこのオジサマを
　ご主人サマにしたいって！
　だけど、一緒にいたもう片方のブラウニーが
　オジサマとさきに契約しちゃったの！！

　そんなふうにしょぼくれてたボクの前にあらわれたのが……

　クリスだったんだ。

　そして次の日。

　ご主人サマからボクに命じられた
　さいしょのお仕事は、
　クリスといっしょに森へと向かうことだった。

　システムとしてのクリスの力によって
　エンブリオであるご主人サマに
　複数のエンブリオの能力が書きこまれている……
　とか何とかだっけ？　ご主人サマがクリスについてる嘘は。



　クリスはご主人サマの話を
　ぜんぶ鵜呑みにしてるわけじゃないんだろうけど、
　それでも信じちゃってるところが
　しょうじき純粋すぎるよねっ☆

　開きかけたクリスの口は、そこで止まっちゃった。

　今のクリスには、目の前のボクが見えてない。
　当然だよねー。意識がないんだから。
　いや、意識がないより意志がないって
　言ったほうがいいのかなっ☆

　クリスの影から出てきたのは、
　ボクのご主人サマ。
　ネクターによる“契約”を
　おこなった相手ってことだねッ☆

　そういってどこかへ飛んでいっちゃった。
　まったく、ボクと契約してからずっとこうなんだからッ☆





　仕方がないから、ボクは練習をはじめたのさっ。
　この状態のクリスも、まだ外部からの
　刺激に反応するみたいだから。
　ってことで、今日も元気にクリスを驚かせてみよーっと！

目の間の次々と起こる不可思議な現象、それはどうでもいい・・・
それよりも、さっきまで話していた少女が何も言えなくなったこと
そちらのほうが、文にとっては心配すべきことだった

そいう言うと文は、クリスをおぶって、安全そうな場所を探すのであった

ジーンがナニモノであるのかについて、薙疾は触れない。
本当に気にしていないのか、話さないのなら聞き出さないということなのか。

再び言葉を切ったジーンに対して、薙疾が応じる。

ジーンは沈黙する。
わかっていたことだ。
彼女は忠告をしたところで足を止めるような人間ではない。
なら──

そう言い残し、ジーンはその場を離れる。

ジーンが薙疾に伝えたこと。
薙疾がジーンに問うても、結局言わなかったこと。


その両方について考えていると、背後に突然気配が生まれる。

振り返ると準備運動……いや、駆動と言うべき行動を取るクリスがそこに居た。
彼女は視界に自分を捉えているはずだが、特にこれと言った反応はない。
薙疾も特に反応を返さず、クリスの挙動を見守っている。

出会って僅か二十日間ながら、最初に言った通り…妹のように思える少女に対する情愛と。
ジーンの言い残した『結末』に対する少しの不安を持ったまま。

やがて、何事もなかったかのようにクリスがチハヤに声をかけた。

薙疾は笑顔で応じる。
クリスが何事も無く接するなら、自分から何事かを起こす必要はない。
ジーンが何を視ているにせよ、彼女の言によれば（少々戦いの連続ではあるが）自分たちとの日常を喜んでくれているようなのだから。




物事には終わりがあり、物語には結末がある。
しかし薙疾は今はただ、日常という物語の頁を綴る。

ニッコリと笑顔を見せる。