ネクターが自生し、谷を赤く彩るため、ついた呼び名は「赤色谷」。
山深いところにあって、近づく人は、多くない。
赤色谷には、まっしろな姿をした小人が棲んでいた。


　『こどもたち　赤色谷に近づいてはいけないよ
　スラッグマンに　魂を吸われてしまうからね』

　　メルンテーゼ西方ポタポタ地方マガリ村の伝承より



「スラッグマン」は、メルンテーゼ複数地方の民話に登場する小人である。地方によって伝承内容には違いが見られ、「シュガードワーフ」等の名前でも呼ばれる。
宇宙人、異世界人、精霊や妖精の一種であるなど、諸説あるが定かではない。
現在は、メルンテーゼ西方、ポタポタ地方の赤色谷でのみ姿を見ることが出来るとされている。

メルンテーゼ人と同様に、ネクターの花弁を用いてエンブリオと契約する慣習をもち、契約したエンブリオに変身する事ができる。
群生しているネクターを棲家とし、エンブリオと共生する。

スラッグマンは、言葉を持たず、種族全体で記憶や意識や思考を共有している。
遥か昔にメルンテーゼにやってきた一匹目から、現在生きている個体までの長い時間の記憶を種族全体で所有し、種族全体で思考し、意思決定をする。
通常、個体による個性は殆ど持たず、例外的に発生した意思を共有できない個体は、のけものにされてしまう事が多い。


さて、のけものだった一匹のスラッグマンは、のけものだったからこそ生き残った最後の一匹のスラッグマンとなった。

新王に奪われた赤色谷のネクターを取り返すべく、最後の一匹は、お喋りなエンブリオと共に、一揆に加勢することとなる……。


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スラッグマンは名前を持たない。
最後の一匹だろうと、それは同じだ。
彼のことは、ポチでもタマでも好きに呼んでくれればいい。

体のおおきさは、1メートルに満たない。
体はとても軽く、容易に宙に浮くことができる。

だから、風に乗り、仲間のなかでは異端視されてきた好奇心の赴くまま、どこかの誰かのまだ見ぬ人の元へ現れる事もあるかもしれない。

……そういえば、彼らには「魂を吸い取る」なんて言い伝えもあったけれど、それは子供を谷に近づけないための、大人のうそだから、ご安心頂きたい。