ダルシャナの事典亭は賑わいを見せていました。
噂に聞く多くの人がそこにいて、私の数少ない知り合いもまた、そこで出会うことが出来ました。

薄暗い店内を照らすのはランプの赤い光。賑わせるのは声とジョッキ、グラスが交わされる音。
このメルンテーゼには色々な人たちがいて、それが丸々、そこにあるようでした。
今やそれに不満を投げかける人はおらず、その不均一を当然のように受け入れています。
賞金首だからといってそれを咎める人も、いませんでした。
居心地が良くって、お酒と料理が美味しくって、好きな人たちがいる。これ以上のことは、ないでしょう。

ユール祭、という催しがあります。
私はその祭りについて、深くは知りません。
冬至祭で、少なくとも、この店においては、霊に祈りを捧げるという、それだけのことしか。

……私は祈ります。
今となっては、私は、いくつの霊に祈るべきなのか、誰に祈るべきかは分かりません。
律法騎士団として粛清した相手、私が、欲を抑えきれずに斬り付けた、女の子。
立ちはだかった敵の兵士……いや、数多くの、人ならざる生き物たち？
あるいは、私が夜に徘徊していた、ただ斧に残された血の汚れだけが手がかりの誰か？

私は、思いつく限りに、祈りを捧げました。
夥しい限りの罪を、私は重ねてきたのです。
それは謝罪によって赦されるものではないでしょう。罰を与えるべきものかもしれません。

だから、私は、ただ、ただ祈りを。
赦されなくとも、私は祈ります。死者の冥福を、一つ一つ。

不意に。
その長い祈りの中、不意に過ぎるのは。

燃えるような夕日を飾る、赤一色の窓辺、天蓋を持つベッド。
金色の長い髪をそこに溶かして、目を閉ざす女性。

美しい、人間の女性。

私の頭に焼け付いて離れない、その光景、その美しさ。
それが、彼女が持つ意味を、私は知らないで、ただ姿だけを思い出します。

フィリーの続く言葉に、彼女の腕を愛でていた夢愛は止まって顔をぎこちなく向けた。

そう言う夢愛の表情は、賞金首を目の前にして脅えるでもなく笑っていた。
フィリーの腕を撫でていた指先は彼女の肩ともう片方の手首を掴み、顔を間近に迫らせる。
その空気はどこか、発情期の獣かと思えた。