シュルケーは不思議なことを言った。悪霊の代わりにエルが召喚されたというのだ。エルは元の世界で魔法実験をしている際、魔法が暴走しこの世界に飛ばされた。この世界で意識を取り戻したとき、悪霊はすでにいたのだった。

　そのとき何が起こったのか、シュルケーは知っているのだろうか？

「おい、詳しく教えてくれないか？」

「あっ、しまった。ダメ。ダメなんだよ。禁則事項なんだよ」

「どういうことだ、教えろよ」

「だーめーでーすー！　教えられません！　忘れてください！」

「あんな重要そうなこと、忘れられるかよ！」

　エルは少しむっとしたが、しょうがない。シュルケーはそれ以上の情報を口にすることはなかった。しかし、エルは気付いていた。彼女のセリフは……つい口を滑らせたという感じではなかったということ。

『もしかしたら、何らかの理由で彼女は口止めされているのかもしれない。ポロっと口にしたという形で、僕に忠告してきたのかもしれない。背後に誰かの意思があるのか……それはまだわからない。だが、この件は僕が思っていた以上に複雑なことになっているようだ』

　シュルケーはすました顔で一緒に旅をしてくれた。まるで何もなかったかのように。エルは、やはりこの先は自分で解き明かさないといけないと思った。何もかもシュルケーに教えてもらってばかりではいけない。

『いつまでも誰かの手のひらの上というのは情けないからね』

　エルは空を見上げた。寒空は分厚い雲に覆い隠され、粉雪がはらりはらりと舞っていたのだった。