6,7歳くらいの女の子と男性が庭で話している。
彼女はその男性（父親だろうか？）にノートを貰って顔を輝かせていた。


「お前は物を書くのが好きだろう？…母さんにそっくりだ。
何でも好きなことを書きなさい。いつか父さんに読ませてくれないか」

「うん！ありがとう！……お父さん、今日もお仕事？」

「ああ。もう少ししたら出かけるよ。兄さんと姉さんと良い子で待っていなさい」

「…うん。行ってらっしゃい、お父さん」


ノートを抱えたまま「リラ、行こう」と猫と一緒に庭を駆けていく娘を、父はずっと見つめていた。






小さな部屋で金髪の女の子が机に向かっている。
暫くするともう1人少女が入ってきた。少し年が上だろうか。彼女も同じように豊かな金髪だ。
部屋の奥に向かって何をやっているのかと声をかけるが、全く振り向く気配を見せない。
集中している様子に何かを閃いたのか、少しずつ近づいて真後ろに着くと耳元で「わっ！」と声を出した。


「きゃあっ！！お、お姉ちゃんもう来たの！？」

「うん、少し早めに……ねえ、そんなに真剣に何を書いているの？」

「えっ、な、なんでもないわっ」


姉の言葉を待たずに、妹は机の上に広がっていたノートとペンを慌てて机の引き出しにしまった。
色白な肌が見違えるくらい頬が真っ赤に染まっている。


「お姉ちゃん、ほら早くご飯食べましょ？ね？」


背中を押して自分の部屋から無理やり姉を追い出しつつ、ちらりと引き出しを見る。
その時、6:50に設定したままだったアラームが鳴り響き、少女は慌ててタイマーを止めに戻っていった。






流石お城の中だな、と彼女は考えた。
数えきれないほどの赤い屋根を持つ同じ形の建物が綺麗に並んでいる。こんな場所に来たのは初めてだ。
しかし洗濯物は往来のど真ん中に干されているなど、整備された建物とは裏腹に住民達はそういったところに無頓着なようだ。
一緒に来た父は奥で話し込んでいる。


「いつも助かるよ。これで研究が続けられる」

「お前も物好きだよな、あんな森の奥に引き篭って毎日研究なんざ」

「ネクターの力の応用はあいつの夢でもあったからな。城から援助を受けて研究できるなんて、むしろ感謝したいよ」

「そういうエンブリオの領分に人間が手を出すもんじゃねえと思うんだがな……ま、死なない程度にやりゃいいさ」

「おいおい、別にネクターを体内に取り入れようなんてわけじゃないんだ。変なこと言わないでくれよ」

「そっちじゃねえよ、働き過ぎだ。子供に顔忘れられてるんじゃねえか？」


男はさっきから目を合わせようとしない少女を見て苦笑した。
言われた父親も苦笑いで返す。好かれているとは思うが、母がいない分をちゃんと埋めてあげている自信があるとは言えない。


「そっちこそ、ちゃんと実家に帰っているのか？子供も結構大きくなったはずだろう？」

「当然だろ。何が悲しくて休暇までこんな男臭い兵舎で過ごさなきゃいけねえんだ。
アイツは元気にしてるよ。将来は俺のように城の兵士になりたいんだとよ」


呆れた様子を装ってはいるが、嬉しそうな顔を完全には隠しきれていない。
有名な隊長も子供の前では1人の父親だった。





「お前まだこんなの書いてたんだな」


妹のノートを取り上げて中身を見ながら兄は言った。
取られた方はというと、怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤に染まっている。


「見ないで！返して！」

「これ、主人公自分の名前にしてたのか？」

「返してって言ってるでしょ！」

「今年で13だろ？いや、俺はよくここまで続けたなって感心して……っておい！？」


余程見られたくなかったのか、ついに妹は実力行使に出た。
怒りに任せノートを取り返した彼女は、そのままノートを破いて捨ててしまう。


「何も捨てることは……」

「もういいの！お兄ちゃんなんて大嫌い！」


赤く腫れた頬を擦りつつ兄は謝ろうと妹に近付いた。
さっきまで真っ赤だった妹の顔は反対に青くなっていて―――





ぐらり、と目の前の光景が歪む。

さっきまでとは違う荒い映像と声が一気に雪崩れ込んでくる。




「カートライト先生！お嬢さんの容態が悪化したと、今連絡が―――」

「俺があの時見たりしなければ」

「お前はこれまでの研究を、あれだけの功績を全部そんな夢物語に浪費するつもりなのか！」

「せめて物語の中のお前は、幸せに―――」

前提とは。
アイサは君を見ると、にこりと笑った。

英雄。
グレンダの祖先、そして……

その言葉は、まるで呪いのように君に突き刺さる。
そして一瞬の呆然の後、君が意識を向けた時、星詠みの魔術師は何処かへと消え去った後であった。

驚いた感じで彼女は言った

ｸｽｸｽと笑みを浮かべながら

さっきとは違い、彼女は上手く剣を振るう