ふるさとから便りが届いた。
どうやら人間と俺達は未だに相互理解を深めてはいないらしい。
仕方のない事だとは思うが、どうにももやもやするのは確かだ。

しかし、この戦乱が終わった後ここはどうなるのだろうか。
俺の居た世界よりもこの世界は今、多くの種族が共生している。
だがそれは一時のことで、この戦いが終われば多くの者達が元の世界に帰っていくのだろう。

ただ、残る者もいるわけで。彼らがどのようにメルンテーゼの住人達と理解りあっていくのか。
あるいは大きな軋轢となるのか。
今の俺達の境遇を考えても容易に相互理解が深まっていくとは思えない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


我々と居を共にし、存在を異とするモノに《彼ら》がいる。
《彼ら》は旧き世界を変える改革を為し、今こうして我らと同じ土俵の上にいる。
しかし知れば知るほどおかしいことだらけである。
我々がこの世界に同居していることもそうだが、
何より、《彼ら》はこの世界の物理法則に本当に従っているのだろうか。
実に疑わしい限りである。

《彼ら》だって食事をする。しかしトイレをすることはない。
《彼ら》だって視力がある。しかし瞼やレンズは存在しない（するものもあるが）。

《彼ら》の食事風景は異常そのものだ。
彼らの体内に取り込まれた食物は瞬く間に見えなくなるのだが、
それは確かに時間をかけて、ゆっくりと消化されているというのだ。
それは《彼ら》の中の、透明な体を持つ物達もそうだ。

これは我々の理解力が乏しいのだろうか。
しかし、目に映らないモノを信用することを強要されるというのは我々の生存の危機ではないだろうか。
我々は彼らの生態をより理解しなくてはならない。
共存とはそういうことだったはずだ。知らないモノをどうして受け入れることができるのか。

しかし《彼ら》と我々の講和が為された時に我々はそれを知る機会を失ってしまった。
長らく《彼ら》について調査してきたベルタール博士はこう語る。

「無機物（一部有機物を含む）に宿った彼らの命は一体どこから来たのだろう。
彼らには親も子もいない。彼らは突然命を気まぐれに与えられたに等しい。
彼らはその存在に疑問を抱くことはない。そして彼らは国民としての権利をほぼ暴力によって得たと同じだ。
彼らと我々の価値観は決して重なるものではない。
彼らが今以上の権利を得ようとした時、その力は必ず我々に向けられる。その時、我々は彼らと分かり合うことができるのだろうか。」


無知は罪であるならば、今のこの状況こそが最大の罪と言えよう。
確かに私も隣人の営みを知ることはない。
しかし、私達人間がどのようなメカニズムで運動し、生活しているのかは調べれば誰でもわかることである。
だが我々は《彼ら》に対して何を知っているだろう。
どうやって動き、どうやって食べ、どうやって眠るのか。
知らない相手とどうして友好を保つことができようか。
長年我々は《彼ら》を虐げてきたが、それとこれとは話が違うのである。
今こそ我々は親交のためにも、《彼ら》をより理解するべきだろう。
そのためには、必ず《彼ら》に協力をしてもらわなければならない。
これは初期段階であり、こんなところで躓くことのないよう願いたい。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

懐かしい本を読んだものだ。


何にせよ、俺達はこの世界の住人ではない。
ならばルリアンナの狙い通りに只管進んでいくしかあるまい。
そういえば、フーキはどうしているだろうか。
この状況で元王国側の彼は……

あまり深くは考えていないのかもしれないな。
元より彼は智より武の漢だった。
最近は会ってないが、話す機会があるといいのだが……