――「鼓」を知ってるかって？

　そりゃ知ってらぁ。
　楽器だよ、楽器。砂時計の形状をしている、太鼓みてぇな東方の楽器さ。
　ま、太鼓も鼓のひとつだがね。羯鼓や鉦鼓も、究極のところ鼓の一種だろうよ。

　なんだって？　楽器の鼓じゃなくて、狐の鼓を知っているか？
　だから言ってんだろ。知っている、ってよ。

　まぁ、聞けよ。

　今よりはるか昔、ある場所に、庶子から王座に登りつめたスゲェ王様がいてな？
　その王様が、旱魃で悩む大地に天候操作系の大魔術を執り行えと命じられたのさ。
　当時、名を馳せていた魔術師は２人いてよ。
　片方は配下の術師を大勢連れて、集団の魔力をコントロールした大魔法陣を敷いた。
　だがよ。もう片方は、魔法の楽器を作って術を行おうとした。
　なんでも彼の言うことにゃ、旱魃は死霊の仕業なので雨を呼んでも意味はない、とね。

　もう、わかったろ。その、死霊退治の楽器が、化け狐の正体さ。
　……なぁ、あんた。鼓の皮って何で作られるか知ってるかい？
　くくっ。そうさ。もちろん、その鼓の材料が、それそのものさ。
　未曽有の死霊には、未曽有の化物をぶつければ、互いに相殺して万々歳、ってな。

　製法？　そいつぁ俺も知らねぇな。術師が墓まで持っていっちまったからよ。
　でもな。王様が治めていた国の一地方では、狐の伝説がまったく消えちまってるらしいぜ。
　関連してるかどうかまでは、俺にも責任取れねぇがね。

　ま、こんなところだ。情報料は負けとくよ。
　はは。お前さんが何か掴んだとき、俺に売ってくれるだろうってのを期待してんのさ。




　……はい、全て伝えました。
　程なく貴方の元へ辿りつくでしょう。

　嫌ですよ。私はしがない情報屋ですが、貴方を売ればどうなるかぐらいは知っている。
　はい。わかりました。以後はそのように……。

　　　　　　手帳を開いてちらっと見ている

勿論、相手が口にしたのは御伽噺であり、その話がそのまま少女に当てはまるものではないとわかっているが。
それでも、何か、ひっかかるものがあるのだろう。胸元に手を置いて、何か、自分でも把握できぬものを抱くように頭を垂れた。

手をぶんぶんと横に振った。一歩、後ろに下がる。
それが、二歩、三歩、と後ろに下がるのは――心の奥を、少女が理解もできぬままに抱く、何かに触れるような、人外だからこその一言。

断言出来るはずだ。
自分は、ただの人だ。

ただの平凡な、とある街の、とある家で育った、――普通の、女の子だ。

そう断言できるはずだというのに、言葉が出てこなかった。
ぶんぶん、と何かを振り払うように、問いかけ全てを拒絶するように首を激しく左右に振って。

叫んだ。間違いなく、これは本心だ。嘘偽りない、……少女の、現状を。
怖れるように、今にも逃げ出さんばかりに。くるり、と狐の物の怪に、背中を向けるだろう。逃げる、為に。

薦められるまま。
どかりと、平たい石に腰を下ろす。
大地に突き立てられた大鎌が、日光を反射してぎらりと光った。

そうして、ため息を一つ。

「そうして『人間』になった君ならば
生きることに最も強く執着した君ならば
『最強の兵器』になれるだろう」

「誰よりも　何よりも強く
神をも引きずり倒し　悪魔をも薙ぎ払う
恐れるものなど無い　『最強』に」

本気で悲しそうだ！

距離をとったというのに気づいているのか気づいてないのかわからないが、その場でニコニコ微笑んでいる。

それはそれでまた違うツッコミである。

チロリと舌をだして自分の手の甲を舐めた。

ふむ・・・。と少し考えた様子でセレスは空を見上げる。
空は相変わらずの青空で鳥が飛び交っている。

導き手。
彼女の一族はその名で呼ばれている。
高貴な一族であるエキドナ種である彼女らに導かれるものは、多大な栄光や富を手に入れるという。
選ばれるものは特別な存在な場合もあれば、ごくごく平凡な存在の場合もある。

彼女たちは一定の年になると導くべき相手を探して旅へと出る。
導くべきヒト・・・・これは実は彼女ごとに決まっている。決まっていると言うのはややあやふやだが、彼女たちの記憶に生まれた時から刻まれているのだ。
出会わなければ出会わず終わり、出会っても導く資格がないと判断する者もいるという。故に導き手と言う名前では呼ばれてはいるものの、実際に導くか否かはわりと彼女らの機嫌によるものもある。


さて、セレスの話に戻そう。

最後はラーフィーの方が折れた。ということである。

どういう返答が返ってくるのかは薄々感付いているのかもしれない。
が、それでも聞かずにはいられない。
そんな態度が見て取れそうだ。

トガノの表情が久し振りに緩んだ。
それこそ、新しい玩具に喜びはしゃぐ子供のように。
しかしツヅミに今までの生き方を問われれば、その表情は陰に潜んでしまう。

それ以上は語らない。
それこそ、諌められたことに拗ねる子供のように。

ある意味では間を取り繕うような形で、今度はシオンが口を開き始める。

『家族』。
シオンがその言葉を少しだけ強調して言ってみせたことに、ツヅミならば気が付くのかもしれない。

シオンはどこか照れるような、恥ずかしがるような態度で赤面してみせた。
しかし一方で、次のツヅミの問いには首を傾げてみせ。

失言。
だが、それにシオンが気付いている様子はない。
これは誘導されて答えてしまったというよりも…本能的に口にした。
そんな表現の方が似合いそうだ。

表情を曇らせたシオンは、それ以上口にしようとしなかった。

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何故笑われたのか？といった様子でぽかんとツヅミの顔を見つめている。
一旦は少し表情を歪ませたが、ツヅミの言を聞けば、再び平静を取り戻し。

これ以降、どこか上の空な様子でツヅミの言葉に相槌を重ねていく。
ただそれでも、一部の単語は何となく聞き取れたらしく。

その場に当事者が居ぬことを理解しながらも。
普段と全く異なる顔を見せたツヅミの顔を思い出しながら、呟いた。
―――まるで、狐に摘まれたかのように。

エリファスはそう暗い顔で、あなたに答える。
その表情を除いて、確かに身体に問題はなさそうだ。……それはそれで問題な気もするが。

愛想よく対応してくれるあなたに好感を持ったのか、エリファス―――エルはそう提案してくる。

その一方で、少女人形の方は青年を蹴り飛ばしておきながら、どこか仏頂面をしている。
それでも、あなたに向かってスカートの裾を摘まんで挨拶をする辺り、
最低限の礼儀は守るつもりのようだが。

闘技大会で手合わせをした少年が、あなたに話しかけてきた。

そう前置きすると、少年は用件をあなたに伝える。

羨ましそうにあなたを見つめている。