――子供達が噂話をしている。
それは、そこに伝わる民話のような、おとぎ話のような、よくあるお話にも聞こえたけれど。
でも、――「黒い姿の殺人者」は、もしかしたら、仇なのかもしれなかった。




――走る。メルンテーゼというこの世界に来て、これだけ走るのは初めてかもしれなかった。
全力疾走というのは、ともかく体力を消耗する。
しかも、ここは競技場のトラックではないのだ。綺麗に均された、走るのにうってつけの場所ではない。
これから戦うかもしれないというのに、これでは返り討ちにあうのがオチだ。
それでも、走らざるを得ない。仕方が無い。

――何故と尋ねられると、叫んで答えた。

普段なら軽口を叩く。笑顔であしらう。
なんでもないよと誤魔化して仕舞い込む。
けれど、そうしている暇も惜しい。
子供達は、おとぎ話の中の黒い人物を見かけたのだと言っていた。
それは数分前かもしれないし、数時間前なのかもしれない。
――早く追わないと、逃げられてしまう。
だというのに、エンブリオは走る自分の傍らに浮かびながら、時にぐるりと顔の周りを旋回しながら、しきりに尋ねてくる。

急に一人で進んでしまった仲間のことを言っているわけがない。
だって彼は最低な奴ではない。
むしろとっても良い奴、大変なおひとよしだ。
探しているのは――まったく違う。


アイツは――冷徹で、残忍で、仕事に情熱があるわけでもない。
自分の仕事に誰が巻き込まれようとも、まったく構わず、いくら被害が拡大しようとも、まったく厭わず、すべてを殺して楽しむような――悪魔だ。
呟くと、エンブリオは威厳のありそうな低い声で囁いてくる。

けれど、可能性はゼロではない。
"噂"があった。
ならば、探し出すべきだ。
嘘でも本当でも、誰がその「黒い姿」の人物なのかを、はっきりさせれば、それでいい。
――ヤツではないと分かればそれでいいし、そうではないのだったら…………





――片桐零が冷静に考えれば、すぐ分かったことだ。
「最低なヤツ」ならば、そのような噂話をする子供達を、生かしておくわけがない。
――子供達は最後に、決定的なことを言っていたと、思い出せたはずだった。
その黒い姿の人は、正義の味方なのだと。




そうして冷静になれぬままに、黒い姿を発見し――






(Eno380　怪傑Xさんをお借りしました！ありがとうございました）

あなたが右腕からアームブレードを出したのを見て、エリファスは思わず後ずさる。

……後ずさろうとしたのだが、隣にいた少女人形の鮮やかなソバットによって、
逆に前へと吹っ飛んでくることとなった。

あなたの顔を見た瞬間、エリファスの表情が硬直する。

それで、完全に気持ちが落ち着いたのか。
エリファスはあなたに向けて謝罪してくる。

エリファスの謝罪に合わせて、少女人形もスカートの裾を摘み、ちょこんと挨拶をする。

……どうやら、エリファスが怯えた武装に、彼女は興味を抱いたらしい。

あなたへと馴れ馴れしく銀髪の男が話しかけてきた

近づき、おもむろに服の裾をつまんできた

頭をポリポリと掻きながら少し離れる