『ししょーししょー！つぎはどっちにすすむのです？
小生はみぎがいいとおもうのです！』


「・・・・・。」


『ししょー？』


「・・・・・。」


へんじがないししょーがきになって、じっとみつめる猫。
ねこのしせんにようやくきがついたのか、いままでぼんやりとしていたししょーがはっとしたようにかおをあげました。


「な、何だよ？」


『だから、つぎはどっちにすすむのです？』


「あー・・・・・右だな。」


『やっぱり小生のかんにまちがいはなかったのです！』


こたえにまんぞくしてとびきりのえがおをうかべる猫でしたが、すぐにまじめなかおになり、


『ししょー、ほんとうにだいじょうぶなのです？』


とたずねました。
まえのひから、こんどはししょーのようすがおかしいようです。
いつものごういんさがなく、ときどきためいきをついてはものおもいにふけっているようです。


『まさか、こい――』


「違うわボケがァ！！」


…まだツッコミはけんざいのようですが。






いったいししょーはどうしてしまったのか、猫にはまったくわかりませんでした。
それならばと、セバスチャンにきいてみようとしたのですが――


「・・・・・そうですか。全くあの方は――」


『それで、ししょーはどうしちゃったのです？』


「坊ちゃまが心配されることはありませんよ、そのうち元通りになるはずです。」


そういって、はなしをうちきられてしまいました。
なんだかはぐらかされたようにもおもえます。






それでもやっぱりきになってしまう猫。
ししょーをほっとけないようです。
しかし、そのげんいんがわからなければてのうちようがありません。

そのせいか、そのよるはなかなかねつけずにいたのです。

しかたなくめをとじてねっころがっていると、すこしはなれたところでだれかがはなすこえがきこえました。
おそらくセバスチャンのこえでしょう。
なんとなくききみみをたててそのはなしをきいてみると――



「――らしくないですね。さては先日の事をまだ気に病んでいるのですか？」


「・・・・・別に俺は――」


「先日坊ちゃんが体調を崩されたのは貴方が山での修行を強要したから、とでも言ってほしいんですか？」


「！」


「別にそうと決まったわけではないでしょう？思った以上に繊細な方ですね、貴方は。
――坊ちゃんも貴方の様子がおかしいと気にされているようです。そうやって気に病まれる方がこちらとしては困るんですよ。」


「何だよ、そりゃあ・・・・」



セバスチャンとししょーのおもいがけないおはなしに、ようやく猫はなにがげんいんだったのかをさとりました。
ししょーのようすがおかしいわけ。それは猫がそもそものことのはじまりだったようです。

ふたりのはなしから、どうやらこのあいだのぐあいのわるくなったげんいんがししょーとのやまでのしゅぎょうにある、とししょーはおもいつめているみたいでしたが――

猫は、ねっころがりながらうずくまると、ぐっとこぶしをにぎりしめました。














つぎのひ。
猫はやまをおとずれていました。
あたりにはししょーやセバスチャンのすがたはみあたりません。
それもそのはず、まだよるがあけるかあけないかといったころにめをさました猫はそっともうふをぬけでると、ねむっているふたりのそばにかきおきをのこしてそのばをはなれました。



このあいだのことはけっしてししょーがげんいんだったわけじゃない。
それをしょうめいするために、このまえのしゅぎょうをもういちどやってみよう、というわけです。
そんなわけで猫はただひとり、やまのぼりをはじめました。

みちはけわしく、ときおりあぶなっかしいばめんもありました。
でも、それは猫にとってはたいしたくろうではないようです。
むしろ、たのしんでいるようすもみうけられます。



ぐぅ、と猫のおなかがなりました。
そういえばきょうはなにもたべていません。
はやおきしたことによって、いつものあさごはんはたべていなかったのです。

そろそろきゅうけいしようかとおもい、ちかくのいわにこしかけます。

きょうは、だいぶすすんだきがします。
あとは、このまえのようにやまのいきものとじっせんをつめるとなおよいのですが――


そうかんがえていると、すこしはなれたばしょにクラゲがいるのをみつけました。
なぜクラゲがやまにいるのだろう、というツッコミもそこそこに、これはチャンスだと猫はおもいました。
ここでけいけんをつんで、そしてししょーのもとにもどればししょーもあんしんしてくれるにちがいありません。


そうかんがえると、猫はクラゲにむかっていちもくさんにかけだしていきました――

同意している様子を見て何かを感じたのか、かーこと見比べてみたりして。

どうやら、棒倒しで決めた結果らしいです。
メイは初耳だったらしく、かーこの頭を何度かつっついて。

つよそうなやまのいきものとであってしまい、おもわずあしがすくんでしまいました。
しかし、もくてきをおもいだすとなんとかこらえてゆうきをふるいたたせます。

ししょーがはねでしめしたさきには――

最早招来の舞というより、好き勝手に羅列しているだけのように思えるけれど、
本人は至って真面目な上に、乗り気だった。ぴょんこ、ぴょんこ。