思い出せる最古の記憶は、自分に物心がついた時。
花隠れの里には例年以上の雪が降り積もっていて、その日は特に、ひと際冷える寒冬が里に赴いていた。
灰の上で火の粉を散らし、ぐつぐつと汁を煮込む地火炉の傍で、熱に当たって寒さを凌いでいた。
父と母は外を走り回り、何かの仕事をしている。
春蔵は大人しく家に居る事を言いつけられていて、早く冬が過ぎないかなっと思っていた。

さて、冬が過ぎれば何があるんだったか？
暖かくなって、蝶が飛んで、花がたくさん開いて、野を駆ける子供たちがいる。何ていうのだった？あぁ――そう、春だ。楽しみだな。あぁ、でも、今だって本当は楽しみだ。
雪を踏みしめて走ってみたいな。



春蔵は走るのが得意だった。それとなく字を書いたり、読んだりも、同年代と比べても、わりと早く習得していた。
体力や、腕相撲で勝てたためしは無いが。それでも瞬発力で補えていた。

――春が来て、大人になって、忍者になって、走ってみたいな。

ただ、ぼんやりと膝を抱えて、自分の逸る体を抑えながら、窓の外からまだ来ぬ日を見ていた。そこに、不安は無かった。

冷たい外気と、火の爆ぜリの中にも、くすぐったい穏やかさを感じていた。

輝く水面を眺めるように岸を歩くと、人参がまるで岩に腰掛けているように落ちていた。

人参を水につけて濯ぎ洗い、ぱくり。