メアリー・ギャッツを打ち負かしても、それで罪が消えるわけではありません。

あの子が不可思議な形で消えてしまっても、それが何かを赦してくれるわけではありません。
私は、大義もなく、命令もなく、ただ自らが求めるままに、

この手を汚しました。

痛々しく傷ついた身体、夥しい血。
その赤色に染まった彼女は、思い出せば、とても美しかった。
私がいくら血にまみれても、鏡に映るのは獰猛な獣。
街には賞金首の張り紙が立ち並び、私を咎めています。
抗えなかった私を。

また、抗えなかった私を。


……？

　＊　＊　＊

いくつかの、既視感がありました。

私の記憶は、抜け落ちています。
どこから来たのか、誰だったのか。
メルンテーゼで一番古い記憶は、エンブリオたるシャントリエリと契約するその瞬間。
それ以前は、船に乗っていたこと。そして思い出したのは、美しい女性の記憶。
記憶が消失しています。
けれど、消失しているのは、それ以降のことも。
メルンテーゼに来てからも、いくつか、記憶のない時間があるのです。

入念に洗ったはずなのに、覚えのない血の臭いで目が覚める朝。
覚えのないマントの血汚れに、ブーツの靴底についた土。
その違和感は多くないにしろ、いくらかありました。
それに、私は……いつ、シャントリエリ以外のエンブリオと契約したのか。

エンブリオは姿を見せません。けれど、確かに契約されています。
高まる身体機能だけでなく、それ以外の魔法のようなもの……。
例えば傷を癒す術であるとか、物を凍らせたりする術だとか、も使えます。

そして、それは確かに『ある』。

確かに、存在を感じるのです。

……何故か、私の中に。

違うのならそれに越したことはないけれど、と付け加える。

一瞬意味が分からなかった。分かりたくなかったのかも知れない。

言っていて気づく。これが賞金首という汚名なんだろう。また、私も同等である。

フィリーさんの目を見て自分のことを話し出す。

一瞬何か違う感じに見えるサニーであった。