河に浮かぶも、土に埋まるも、正しさも悪もが過去に成り果てるのは同じこと。　
始末を終えた。三度目ともなるとさすがに慣れたもので、作業でしかない。　
吸血鬼ではないらしいが、では何だと言うのだろうか。人だとでも？　

トルラルールの初代王のその最期については不思議なほどに語られていない。　
英雄王に限らず、トルラルール統一の戦乱は　
遠き過去の話だとしてもあまりにも資料が残っていなかった。　

わたしは彼――彼女？　のことを知りたかった。　
彼が尊き律法のために戦う兵士であったならば、その意志を想像することが　
同じ律法のともがらであるわたしにとっての義務だと考えたのだ。　
もっと言えば、わたしは彼のようになりたかった。　
彼のように強くなりたかった。　

人でなし、という言葉には負の印象がつきまとう。　
しかし、律法による平和そのものとなった英雄は、人間であると言えたのだろうか。　

誰もに喝采され、祝福を受ける戦いがあれば　
誰もが目を背け、祝福されない戦いもある。　

賞金首同士の戦いは、どちらが勝利しても賞金が増えることもなく　
報奨を受け取れるわけでもない。　

泥に湧く虫をひとつひとつ潰すような、華やかさとはかけ離れた戦い。　
これが正しさのために行われた戦いなのか？　

英雄は最初から英雄だったわけではないとすれば　
英雄を最初に祝福したのは誰だったのか。　

メアリー・ギャッツの一団は一揆軍大本営に賞金首指定を受けており、　
われわれと出会う前にバルシェの隊にてひどい被害を合わせていた。　
先に仕掛けたのはバルシェ達だったという話もあるが、それはどうでもいい。　

個人的に付き合いのあった人間の仇を取ったわけではない。　
そのような形で祝福を受けるのはまっぴらだ。　

わたしはわたしのために戦わない。　
わたしは仲間のために戦わない。　
わたしは敵のために戦わない。　
わたしは友人のために戦わない。　
わたしは家族のために戦わない。　
だからわたしは誰からも祝福されることはない。　

わたしを祝福できるのは。