ぴおは文字を綴ります。随分前に買った鉛筆は、もう半分ほどの長さに。
色んなことを日記や手紙にしたためるうちに分かった事。
　ぴおには思い出が足りません。随分前のことは感覚を伴って思い出せます、しかし数ヶ月前の事が分かりません。
何をしたか程度は分かります。しかし、それがどういうものだったのかぴおには説明できません。
音、感触、匂い、温度、感情。それが欠けているようです。
色んな事を知ってはいますが、それがどこで得た知識かは分かりません。靄がかかって思い出せないのです。
これも思い出が欠けているのと似たような事でしょうか？　思い出せる限り、ぴおが自分一人で生きていけるはずないのです。
ぴおにとって食事は出てくるものでした。自分が這いずってでも確保するものではありません。
ぴおにとって家とはそこにあり帰るものでした。即席で自分の家とし寝床を作るなど考えた事もありません。
　では、今どうしてぴおはそれが出来ているのでしょうか。きっと。

　その誰かの幸せを願って、ぴおは久しぶりに屋根のある寝床を自分の労働を対価にして得ました。

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　赤い花、咲いてた。炎のように乱れて広がり、しかしひめやかにその場に留まる。たった一つの種が空間を埋め尽くす花畑。
足音一つ、ざわり。誰か何かがその場に踏みいった。裸足の足、植物の持つ刺に構う事すらしない異邦人。
花びらが落ちる。茎が腐り折れ地面の色と混ざる様はまるでドミノ倒しのよう。足音とともに、花畑は赤から黒に塗り替えられていく。
静謐な生を二度と動く事のない死へ。急速に腐り落ちていく様は早回しの映像だ。違和感があるとすれば、
それが一人の少女を中心に進行すること。彼女は花畑のほぼ真ん中を歩む。綺麗な波紋が少女の触れた部分から拡がっていく。
　間もなくして、涙のようにぽつぽつと雨が降り出した。この雨が奇跡でも宿していない限り、
一部でも蝕まれたものはもう枯れるよりほかないだろう。それほど絶望的な光景だった。しかし、早回しが鈍る。
原因たる少女の足どりは変わっていないと言うのに。やがて彼女は終端に達し。にわかに雨が激しくなる。
　振り返れば雨にうたれてぼろぼろに崩れた元花畑があった。一体誰がここを花畑だったと思うだろうか？
ただ、少女の右手遠く。未だに侵されざる一角があった。少女はそちらに吸い寄せられるように歩み寄る。
その間にもじわじわと腐食は進む。それは速度を緩めただけで、侵攻は終わっていなかったのだ。
　少女の歩みが終点に達する頃には最早無事な苗は一つとして残っていなかった。ただ、地から蝕まれ腐りゆく幹の上部。
最後の一輪がその花弁に雨を一杯に湛えて赤々と咲き誇っていた。少女の手がその一輪を、枝ごと折り取れば。
果たして、腐食は止まった。今更、少女は空を仰ぐ。激しさの増した雨が少女の全てを洗っていく。
　その手に残った花は自然の理としてゆっくりと腐り落ちるだろう。せめて、それまで。赤い花、咲いてた。
抱きしめるように引き寄せた少女の胸元で。ただ一輪命を全うする。


赤い花が散る。心の底に沈められた彼女と呼応して。
赤い花が散る。ずっと昔に約された一つの想いを呼び起こして。
赤い花が散る。それと引き換えに契約は成った。二人の助けてがアンバランスな存在を作り出す。
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時は過ぎ/時は遡り。今、その時9歳だったはずのぴおがそのままに一揆に参加しています。
背は小さくとも、その体は確実に9年の時を刻んで。喋りは拙くとも、その言葉は確実に9年分の知性を宿して。

恐らく、だが。大体の人は水浴びや湯あみをしていない時に曇りを迎えるだろう。
そう考えると、少女の髪は乾きやすい、というか濡れない利点よりも被害の方が大きいのでは。

喰うな。

撫でられるということだろうか？と彼は疑問に思ったようで

予想外の反応に、彼もあっけにとられたようだ。

ふと浮かぶ、この子は純粋な人間種なのだろうか？　という疑問

なんて、冗談めかして笑った。
どんな事も、情報が無い今はそうでないという保障はどこにも無いのだ。

ちょっと感心した様子で尋ねた。

返答に少し、間があった。
思い返していたのだろうか？

某所。

ふふ、っと、笑みを零す。

一瞬のうちに、目が白い半透明の幕に覆われる。

自分の始めての遠出を思い出し、苦笑いを零す。

ケラケラ笑いながら冗談交じりにそう言って。

指差された店を眺めながらゆらつら尻尾を揺らして

しどろもどろに弁解する。父上の同僚の方も、多分宴席や、個人的な空間での話であって、流石に天下の往来、こういった場での話ではないだろう、とマロウは考えた。

苦笑いを浮かべながら、彼はよれよれのコートと、シャツの腕をまくり上げた。本人の申告通り、もやしか枯れ枝か、とにかく細すぎる腕が現れた。

いささか痛い所を突かれてしまったようだ。マロウは狼狽えているし、彼の連れであるウンディーネも、堪え切れないという様子でくすくすと笑い声をあげていた。

何やら必死で何かをごまかそうとしている様だ。その様を見て彼のエンブリオも吹き出している。

不意の接近にびっくりしながらも、受け止める翠。
しかし、その身体は見た目よりも随分鍛えられているようで、翠の身体を容易に押し倒す。

押し倒された翠は自然と笑みが零れる。こんなに楽しいのは師匠と居る時以来だった。

何やら良い匂いがするようですが、何かを持っているのでしょうか？

　手首から血を流しながら少女は間に割り込むように立った。

最早招来の舞というより、好き勝手に羅列しているだけのように思えるけれど、
本人は至って真面目な上に、乗り気だった。ぴょんこ、ぴょんこ。