■城内：地下牢にて

　暗澹とした景色の中を進む。
　使われていない牢屋、空っぽな空間が寒々しい。
　時折吹き抜ける風はひんやりとしていて、ついつい身震いを起こす。
「…まさかとは思いますけど、怖がりだったり？」
　数歩分先を往くわんこが、ちらっとこちらの様子を伺い見ていた。
　警戒しながら先行する様などは、なるほど猟犬だな、と思わせる。
　しかし、問われる内容は、納得しがたい。というか、困った。
「せやなぁ…暗ぁて視界がはっきりせんさかい、気分はよォないけども」
　不死の身で、オバケじみた扱いをされるのはこちらだというのに、何に怯えればよいものか。
「怖くて堪らんさかい、手ェつないで言われて困るんは、嬢ちゃんの方やと思うねん」
「普通にお断りします」
　おい、さくさく進むな、足速いぞわんこ。

「…なぁ、嬢ちゃんや」
「お断りします」
　察し具合が研ぎ澄まされてきたな、わんこ。
　しかし、連れて歩かれるばかりというのも、これでなかなか苦痛で。
　つまりは、ヒマなゆえの余所見なのだが。
「そこらの木の棒でも拾って、ほーれ取ってこいー言うたｒ」
「どこをどつけば致命傷にならずに痛めつけられるか考えようかと思ったら不死でしたねやったね！！」
「やったやない、やったってもない、やらへんから、やるな、やらんどこう？」
　変な五段活用を口走りながら、どーどーと両手の平を掲げてみせつつ。
　がるるると唸りそうな気配に、ぼそりと付け加えてみる。
「…ちなみに、竜の嬢ちゃんが同じことやったら」
　ぴたりと、時間が止まった。
　ように思えたので、きょろきょろと周囲を見渡し、自分の手を握ったり開いたりしながら、ふむ、と確認。
　わんこの歩いている動作がそのまま停止しただけで、私の時間は正常に動いているようだ。
　しばらくそのままで、斜め後ろから観察を続ける。
「…お嬢様はそのようなことしません！」
「…そうかなぁ…？」
　案外と。と思わなくもないけども、首を傾げて立ち止まっていると、再びのスピードに置いていかれそうになる。

　可愛らしいものだな、と思う。
　地獄の番犬でもあるそうだが。
　はて、地獄には番犬をつけなければならないほど、何か、よいものを溜め込んでいるのか。
　あぁ、違う。
　連れて帰りたくなるものの話か、と思い直せば、私が見送ってきた数々が脳裏を過ぎった。
　脳裏？　それが映し出されたのは、本当に頭か、心があると扱われる胸か、それともさらに奥深く、例えば魂なんて呼ばれるものの在り処か。
　はっきりとその姿を思い映し出そうとするには、少し状況が忙しない。
　時間が許せば、地獄とやらに迎えに行ってもよいかもしれない。
　時間以外の諸々が、許しそうにないが。
　例えば、目の前を行く娘だとかが。

「仲良くやろうや、な？」
「お断りします」

　忠犬とは、とかく、他人に懐かないのものだ。

発言すべきかどうか躊躇した素振りを見せる。

がんばろーねー！と大きく手を振っている