口の中でゆっくり溶ける、甘い味が脳を刺激する。

少女はひどく警戒していたが、ためらいながらも飴を受け取り、
それ以上近づいてこないことを確認して少しだけ、警戒を解いた。

同時に、こちらに背を向ける男をチラリ、と見る。

多少の警戒は解かずに、男の様子を窺う。

もし――、

もしも、油断したその隙に襲い掛かってきたら。
どう対処するべきだろうか、逃げられるだろうか…。

脳に多少の糖分がまわり、様々な考えが浮かんでくる。

…そんなことを考えていると、不意に…
こちらに背を向けたまま、男が口を開いた。
その声に、否応なくビクリと肩を跳ねさせてしまう。

――男の口から出た協力的な言葉に、
今すぐにでも縋りたいという衝動に駆られ、ぐっと唇を噛んで耐える。

…そんな少女に、手ぬぐいと飴の缶が差し出され、
先ほどの警戒心とは裏腹に、思わず受け取った。

柔らかな手ぬぐいの感触が、少女の心に響く。

何故この人は…、見知らぬこの人は、私に優しくするのだろう？
血と、泥と、涙で汚れ、惨めな姿の私に…。

浮かぶ涙を抑えるように、手ぬぐいで顔を拭う。

手ぬぐいに顔を埋めたまま、しかし彼の言葉には耳を傾けていた。

聴きなれない名前に、遠くから来た人なのだろうかと想像する。
一揆の参加者――と聞き、
本当に色んな人が、この「一揆」に集っているのだと、考えた。

善人も、悪人も。

手ぬぐいから顔を上げ、
こちらに背を向けている男の方へ顔を向ける。

髪を飾る簪に手をやり、スッと抜いていく。