伯母の訪れにより、私の世界は大きく様変わりをした。
そうしてから、季節が一つ巡り二つ巡るうち、私は剣術に興味を抱くようになった。
体が鈍るからと、伯母がよく剣の稽古をしており、それを眺めていたせいだろうと思っている。

剣の教えを請うことを、最初母さんはよしとはしなかった。
私の体を案じてくれていたのだろう…もともと物静かな女性であったせいもあるのかも知れない。
しかし私は諦めず、伯母を味方につけたことも功を奏したのか、母さんは渋々ながら首を立てに振ってくれたのだった。

目が見えるようになって数年だが、思いの外私にセンスがあったようだ。
「まさか、ここまで剣を振るえる様になるとはねぇ…ホントびっくりだ」
そう言って、伯母は豪快に私の頭を撫でてくれたのを覚えている。



それからまた季節が幾度となく過ぎていく。
平和な暮らし。
それは何も変わらないと思っていた。
しかし変化はゆっくりと、しかし着実に、ヒタヒタと忍び寄ってきていたのだ。



自ら剣を振るうことで技を教えていてくれた彼女は、徐々にその機会を少なくしていく。
最初は、私の剣の上達具合から判断したことだと思っていた。
しかしその見解は間違っていたことを知る。


とても大食漢だった彼女は、食事量を減らしていった。

物を取り落とすようになった。

歩く足取りがおぼつか無くなった。

ベッドで横になっている時間が増えた。


そうして知る
彼女の帰郷が、病の養生のためであったことを。
緩やかに訪れる力の衰え。
決して治ることのない病なのだとも。


時折私は、彼女の傍で歌をうたった。
少しでも体の痛みが
少しでも心の痛みが
少しでも癒えるようにと。

お前の歌が好きだよ、と力なく笑う彼女。
ありがとうと笑った私は、どんな顔をしていたのだろう。




緩やかに終焉へと続く日々のなかで、劇的な変化は訪れる。



握ることを禁じられていた真剣を携え、私は雨の中、縋る様な母さんの声を振り切って走り出していたんだ。

褒められたのが嬉しいのか元気よく吠える。

一度両前足を見つめてから、きちんと右前足をアデルの左手にそっと乗せる。

どうだと言わんばかりに自信気である。

手の槍を握り直しながら気まずそうにそう付け足す

おもむろに右目を外し、薄く青く光る、その鉱石を掲げて。

そう言うと、アデルの手をつかみ…


（※続きはケチェの日記にイラスト付きで（アデルちゃんおかりしました））

目の前にいる彼女は、強さを求めた果ての、追い求めたままの彼女なのだろうか。
私から見たアデルさんは、強い女性だと感じる。芯も、心も。

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” 命を奪う覚悟 ”と、 ” 奪われる覚悟 ”　

努力は…人を裏切らない……
そうかな…。私は努力して、頑張れているのかな…。