１０

　（判読不能）の月、（判読不能）日　おやつの時間

　その日僕はセバスチャン手製のパンケーキを食みながら、ぼんやりと思いに耽っていた。

　思えば、前の戦いも、その前の戦いも、その前の前の戦いだって、いつも僕はセバスチャンに頼ってばかりで、みっともなく悲鳴を上げて彼に助けられてのうのうと生きてきたのだ。仲間を頼ることは決して悪くないことであると頭では理解しているけれど、これはいくらなんでも頼りすぎなような気がしていた。

　メープルシロップのじんわりとした甘みは嫌いではなかった。バターの微かな塩気が心地よかった。ほら、今だってこうして彼の作ったおやつを、当然のような顔をして食べている。

……これは、どう考えても大人の男ではない。

　パンケーキの最後の一切れを口に押し込み、傍らに置かれた牛乳で喉の奥へ流し込む。子供、子供だ。子供扱いされている。くそう。僕のほうからも、子供扱いされることに慣れきっている。

「セバスチャン離れだ！」

　タン、と音を立てて簡易テーブルの上に金属製のマグを置く。それと同時に僕が叫んだ言葉に、荷物の整理をしていたセバスチャンがきょとんと振り向いた。

　ラージン領の領主代行を名乗る男性からの書状が届いたのは、そんな日の午後のことだった。
　書物の中でのみ知っていたラージン領。グリース領の枯れ果てた地とは違って豊かな、独自の風習を持つ不思議な土地。だったと記憶している。
　そういえば、次代領主どのはまだお若いんだっけ。書状を読みながら、地理の授業で家庭教師に習ったことを少しずつ思い出してゆく。

　悪い内容ではない。封を留める印璽だってグリース家のもので間違いないだろうし、文章もしっかりしている。グリース家のような辺境の弱小貴族が、こんな風に他の立派な領家たちと同列に数えられているというのはなんだか不思議な気分だけれど。
　闘技大会というからには、戦いの腕を競うのだろう。そしてこの書状を見る限り、セバスチャン――というか、従者についての文章はない。つまり、従者を伴わなくとも構わないのだ。そして、この闘技大会がどんなものであるにせよ、普段の野良エンブリオや兵士たちとの戦いよりはきっとずっと安全なもののはずだ。セバスチャンだって説得できるはず。

　そう、そうだ。セバスチャンと離れて、セバスチャンの助けを得ずに、僕ひとりでやってみよう。もちろん他の次期領主さまたちと協力しなくてはならないけれど、それだって立派な修行のひとつになるはずだ。
　僕ひとりでやってみよう。僕はあまりにもセバスチャンに頼りすぎていた。ひとりでもうまくやれるように、セバスチャンに助けられてばかりではなく、僕がセバスチャンを助けられるように。

　こんどは僕が彼を守れるくらい、強くならなくてはいけない。

はしゃぐ相手とたわむれるエンブリオに視線を落としていたが、
続く言葉と見上げられる視線に悪そうな笑みを浮かべる

少年の頭の方へと移動して。

　

言うなり夢愛はジャージの上着からはだけて脱ぎ始めた！