チハヤ、アルヴィン、プリケと別れグレンダは森へと歩いていた。
この先を抜ければテラーが待っている。
ロックとCHJは既に目的地の中に入り込んでいるらしく、彼女を迎えに来がてら森の探索を済ませようという考えらしい。

らしい、というのは例によってあっさりとしたテラーの説明のせいだったが、特に気にすることではなかった。
それよりも、もうすぐ久しぶりに仲間が揃うことを考えて楽しみにしていたのだ。

先程、チハヤ達と別れる前までは…………。

グレンダが思い返しているのはついさっき見たチハヤのエンブリオの契約の場面。
瑞薙がそれまで戦っていたパロロコンを補食し、再構成することで力を得ていたのだ。

もちろんグレンダだって食物連鎖、動物が動物を補食して生きることも知っているし、スポーツに近い狩猟も経験した。
そうではない、グレンダの受けたショックは捕食それ自体ではなく―――……


どさっ

考え事をし過ぎていたらしい。足元の小さな凹みにも気が付かず歩いていたようだ。
装備のお陰で出血は無いが、足首が変に痛む。我慢すれば歩けるが少し休んだほうがいいだろう。

小川のほとりに戻って一人考える。
そう、グレンダが気にしていたのはあのアムルイという少女――キラーウルフを食べたという、あの未知の塊とも言うべき少女。
彼女が何気なく渡してきた馬肉はチハヤが興味を示したためあげてしまった。
チハヤはあれを食べたりするのだろうか。それとも別のエンブリオの餌とするのだろうか。
彼女のことだから純粋な興味のまま持ち帰っただけかもしれない。

ただ――エンブリオを食べる、という行動を抵抗なく受け入れるチハヤの様子にはああ、やはり「違う」のだなと思わされた。
人を疑うことを知らずに生きてきたグレンダだったが、自分と違う世界との関わりを持つことへの「恐怖」を知ってしまった。
思えば全く知らない世界の、全く知らない人々の言うことを信じてここまで一人で来たこと自体、
彼女のお人好しさや世間知らずがよくわかる。

エンブリオとは、ネクターとは、それらを独占しこの世界を動かす「魔王」とはどんな存在なのか。
ただ自分の故郷のために、と考えそれだけに向かってきたグレンダは、ここに来てこの世界の理について少し考え始めた。

新王の行いは悪、自分の、一揆参加者側の行いは正義。これが今までの考えだった。
しかし、本当にそうなのか？物盗りなども増えてきている今、正義がわからなくなっているのは事実だ。
自分が正しいと思って生きてきたものが信じられなくなる。自分の常識は人とは「違う」。

ゴードニア中が知っている憧れの物語の勇者様。
それは、彼のように自分が故郷を救いたい、とそれだけを考えてきたグレンダにとっては大きな、大きな悩みであった。

はっと気がついた時には先程戦ったのと同じエンブリオ、パロロコンがすぐ後ろまで迫っていた。
思わず身構えるが先程挫いた足が言うことを聞いてくれない。
奇襲への警戒を怠った自分に軽い怒りを覚えながら、来るべき攻撃に備えて防御の姿勢を取る。

パロロコンは動かない。まるで彼女の準備が整うのを待っているかのようだ。
しかしグレンダだって動けない。
このまま睨み合いがずっと続くのか、と霊体化していたエンブリオ達がしびれを切らし始めた頃にグレンダは尋ねた。

その言葉ではっと気付く。
このパロロコンは見ていたのだ、先程までグレンダがショックを受けていたのと同じ場面を。
矛盾や怒り、諦めの感情がありながらも、今こうして目の前で自分と向きあおうとしているのだと。

何を思ったか突然グレンダは剣を収め、更に無防備なまま相手に近付いた。

その言葉を受けにっこりと微笑むグレンダ。
そして、母が遺してくれた青い宝石のネックレスを通して契約が結ばれる。

何も考えてなかった頃と比べて、違う世界に飛び込んだという現実は十分理解した。
しかし本当に大切なことを見失っては本末転倒ではないか。
もう一度自分の信じる正義を見つめて、また進まなければ。
あの勇者のように、たった一人で魔王を倒すと言って人々を、王を、国中を説得し皆を変えたあのお伽話のように。

そう言って歩き出した彼女の背中は、また一つ自信をつけたように頼もしく見えた。

目の前の少女、アイサはあなたを見て軽く微笑んだ。
そう、彼女は星詠み――天の運行を読み解き、それを基に誰かを導く存在
その少女が、自分にに何の用か。

確かに面食らった。
だが肉は食らっていない。いや上手い事を言ったつもりはないが。

十分すぎる程に知ったつもりだ。

アイサの目が、少しだけ細められる。
何故だろう、あなたはその瞳に細く鋭い光を感じた。

森を進んでいると茂みから少女が鉄の棒で自分の方を指し、名乗りを上げている
どうやら、勘違いをしているようですけど…敵ではないことを伝えてみましょう。

どうやらわかってくれたようですが…ところでお一人なのでしょうか？

もしかして…迷子でしょうか

こうして、少女は慌てて去っていくのであった…

戦いが始まる前は多く仕留めたほうが勝ちだー、などと叫んでいて、
実際にナイトスピリットたちへのトドメはほとんど薙疾が決めていたはずなのだが……

気炎万丈を体現しているかのような普段の薙疾と比べると、妙にしおらしい。

水辺での戦いを思い出す。
大技を外した後に相手の魔法らしきものを受けて──

私は突然の来訪者に驚きの表情を隠せない

王女様ってあれよね、王女様よね？　え、いやいや、すごー！？

お、落ち着こう私、う、上手く話を合わせるのよ！

な、なんとか切り抜けた……？