ピアのセリフに焦りを見せるマキリであったがすぐに匂りで気づいたようだ・・。
　　　　　 想定外、おそらく彼の想像以上の本格的な一品に、マキリの騒がしい口も止まった。
　　

何の事かは大体分かったようだ

ピアがおにぎりを作る様を、じーっと凝視する。

ピアがお茶碗を二つ取り出した当たりで、とても嫌な予感が走った。

ピアがお茶碗を振り始めた瞬間、それは確信に変わった。

辛うじて口にこそ出していないが、
内心は「そうじゃないだろ！！」という思いで一杯だ。

彼はただ、ピアが直肌で握ったおにぎりが食べたかっただけだ。
彼女が「作る」と言ったとき、それは適うと思っていた。

しかし……

彼は、差し出されたまんまるおにぎりを見つめながら、思惑する。

---　ここから　---

恐らくだが、目の前の少女は料理を作るのが得意ではない。
サマーバケーション中にピアが起こした武勇伝の数々から、
何となくそれは察していた

「その少女が自分のために作ってくれた！」と考えれば、
例えおわん製とは言え、このおにぎりは"有り"になる。
"有り"にはなるが、点数で言うと40点である。

100点のおにぎりは、彼女が「熱っ！」って言いながら直肌で握ったものだ。
さらに手に付いたご飯を、直接口で取る姿が見られたら120点になる。

120点こそ目指していないが、80点、あわよくば100点のおにぎりを目指していきたい。
そのためには、彼女がおにぎりに直肌で触るという条件は絶対だ。

そうさせたい、いや、そうさせなければ成らない。
料理が得意ではない彼女に、警戒心を抱かせず、かつ断らせないように、
『おにぎりを触らせる』という方向に歩を進めなけれならない。　

そして、させるための秘策を、彼は２つ思いついた。

---　ここまでの思考時間1秒　---

秘策その１『具をグッと入れてもらおう作戦』

おにぎりの具と言えば梅干しかサケだが、それはメルンテーゼでどの程度流通しているのか
不明であり、またリチェッタに常備してあるのかも分からない。
サケの変わりに魚の切り身を頼んでもらうことも考えたが、
ピアの性格を考えると、料理が必要な物は断られる可能性がある。

ならば、メルンテーゼで最も食べられている食材であり、
かつ既に出来上がっている"たくわん"を具材にして貰うことにする。

大事なのは味ではない、彼女に触らせることだ。

秘策その２『おむすびころころ作戦』

おにぎりの塩のかけ方に注文をつけ、こちらでやり方を指定してしまうというものだ。
料理に疎い彼女なら、それっぽいことを言っておけば騙せるだろうという魂胆もある。

なお、彼は嘘はついていない。
ピアがおにぎりを触ったのならば、彼にとっておいしくなるのは間違いのない事実なのだから。

彼は内心の思っていることを一切表情に出さず、
ポーカーフェイスを保ったまま、ピアのほうをじっと見つめる。