舞台はのどかな山里……
　山から流れる清流に沿って続く道を、一人の男が山へ向かって歩いていく。
　どこからか流れてくる笛の音は男が歩を進める毎に段々と耳に届く音が大きくなっていく。

「何用ぞ？　」

　流れていた笛の音がぴたりと止まり、男の頭上から声がかけられる。
　男が頭上を見やると、１人の童子が木の枝の上から男を見下ろしている。
　その服装はと言えば、里の子供達が纏っているぼろとは違い、白をベースにした上等の織物で、その両肩には長く赤い髪がかぶさっている。

「山神様にお目通り願いたい」

　男が童子に向かって声を上げると、童子は木の枝の上ですくっと立ち上がり……

「都の使者には見えんが、素性もわからんものを山神様に会わせるわけにはいかん」

　と、男に向かって告げる。

「我は山神様とは知古の中だ」

「嘘を言うでない。山神様はもう何十年も我ら一族の者以外とは顔を合わせておらぬ」

　男の年は二十代半ばといったところだろうか？　

「ふむ、ではこの勾玉を童子に預ける。山神様に見せるがいい」

　男は童子にそう告げると、無造作に勾玉を放り投げた。
　童子は包帯に包まれた右腕でそれを受け取ると、しげしげと受け取った勾玉を眺める……
　それは淡い桃色をしており、色合いは違うが翡翠のような質感をしている。

「では、我は里に滞在しておるでな。とりあえず３日後にまた来るが、そちらから使いを寄越すのであれば、もっと早くても構わん。
とりあえずそれは無くすなよ？　それを無くせばお前は山神様から後でこっぴどく叱られる羽目になるぞ？　」

　男は童子にそう告げると、元来た道を去って行った。

何故かちょっとカタコトだ

片方が言葉が通じずに、片方とのみ会話。
その結果、片方、つまり今はソルト側にあたる人物が暇そう。
そんな展開は以前他でも経験したことがあるのだろう。ちら、ちら、と時折伺うように相手を眺めており。とはいえ、言葉の壁は厚いのだから、こちらからどうすることも出来ないのだけど。

黄金郷カダイエ。一部の地域に語り継がれる伝説の都の話。
……情報通、ならば。一部の賞金首が狩りの際に話題にしている事を知っているかもしれない。

名付けに失敗という言葉を聞いてもエレネはよく分かっていないようだったが、申し訳なさそうに小首を傾げた。