いつものエンブリオとの繋がりを深める儀式の最中に、その小人の娘は現れた。彼女の言うには、この儀式は間違いが多いらしい。たしかにこの儀式は自己流のものだ。この世界を訪れて初めて出会ったエンブリオ。その力を得るために編み出した儀式。


「君は何かエンブリオについて知っているのかい？」


　何故こんな小さいかなどは置いておき、この赤髪の小人としばらく話すことにした。小さな娘は得意顔で儀式の概要について説明する。それはエルにとって新鮮な情報だった。この世界のエンブリオという力についての仕組み、その一部。


「君は詳しいんだね。ありがとう、助かるよ」


　小さな娘は褒められるとさらに得意顔になってふふんと鼻を鳴らした。そして時間が来たと言って、エルのそばを離れていく。なんとも忙しい娘だ。


「待って、君の名前はなんて言うんだい？　また来てほしいな」


　彼女は振り返ると、にやりと笑った。


「シュルケー」


　そう短く言って彼女はどこかへと姿を消した。不思議な名前だ。シュルケーと出会う機会はその後もたびたびあった。彼女はこの世界についての豊富な知識を持っているが、全ては教えてはくれないようだ。彼女の言う通り儀式を少しずつ修正していくと、確かに今までよりも強くエンブリオと結び付けられていく感覚がする。

　彼女は何のために僕に接触したのか、それはまだ分からなかった。しかし彼女の言うことに間違いはないだろう。エルは彼女にこっそり魔法をかけていた。彼女はいつも得意顔で知識を披露しているせいで、自分が魔法にかけられているとは全く気づいていない。

　エルは彼女についての情報を気づかれずに魔法によって集めていた。彼女は嘘を言っていないこと、この世界に馴染んでしばらくたっていること。そして興味深いことに……彼女はエルと同郷のものである可能性が高いこと。それだけはわかった。

　だが、それ以上の情報は分からなかった。というのは、彼女が……姿を見せなくなったのだ。シュルケーは嵐のように現れて、あっというまに過ぎ去っていってしまった。

　もっと情報が知りたかったのだが、しょうがない。それよりも問題は……シュルケーの失踪と前後して……厄介なアイツが帰ってきたのだ！

ガジガジと差し出されたジャーキーをくわえて、両前足で器用に掴まえてかじっている
ユキシロの頭部にミケのよだれっぽいものが降り注いでいるが、当人は何食わぬ顔をしている

そう言うと目を閉じ、早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が彼女の前に歩み出た。