「なーんて！忘れるのだよ〜！じゃあボクは寝るのだ、おやすみなさい！」

ごろん、とセシルが自分に背を向ける形で寝返りを打った。

何かを言おうとしたが、相手の眠りを妨げるのも、なんて思いながら口を噤んだ。
しばらくして、相手は寝てしまっただろうか。

砂地の夜。空を煌々と照らす月の光が、野営地を照らす。

――そんな、哀しい、寂しげな顔をされたら。

腕の翼を伸ばし、関節部の細かい羽毛に包まれた部分で、
ほんのり珈琲色の髪を軽く撫でる。





必要とされているのだろうか。




卵生で、雌だけで繁殖する己の氏族の中で生まれた、自分を。
繁殖するための産む能力もない。子孫を残す種もない。

故郷では疎まれた。


　　『こいつは不幸を呼び込むよ』


そんな言葉を、他のハーピィから何度も聞いた。
長様が自分を引き取ってくれなかったら、今頃どうなっていただろう。
考えるだけでも怖い。


集落の外に出て、たくさんの人に逢った。
人間も、獣も、魔物も、何もかもがごった返す世界だった。

普通に接してくれる者の存在が、とてもありがたかった。

それでも、やはり男のハーピィというのは、どこへ行っても同じ者は見つからなかった。
普通に接してくれる者も、最初は驚き、戸惑うばかりだった。



――でも、ねぇ。セシル。
貴方は、そんなこと一言も言いませんでしたね。
最初に逢った時が衝撃的すぎただけかもしれませんけど。


一揆に参加するのに、一緒に組むことになって、
貴方と過ごす日々がとても楽しい。

一緒に居て、変わっていく自分が嬉しい。

――セシル。

起こさないようにそっと相手に呟いて。
そのまま撫でていた翼を相手の寝袋の上に置くと、目を閉じた。

寒い砂地の夜も、
二人ならあたたかかった。

小さな鳥の姿が闇に溶け、黒髪に真紅の角を持った男の姿を形成する。
その男の呟きは、眠ってしまった二人に聞こえることはなかった。

撫でてもらえました！自分の頭を撫でる翼の方にどーん、と擦り寄って行きます。
マーキングするかのようにすりすりしてますね。
完全に逆効果というか、効果無し！！
とっても楽しそうに、翼にじゃれついています。

どうしてこうなった。