戦闘狂やヒトガタを、地下牢の冷たい床に沈めて“いのち”をもらってひとしきり。

「うー……」
「きもち、わるい、にゃあ……」

　生身のものには、地下牢の空気はあんまりよいきもちじゃないらしい。
　いや、ボクもお世辞にもきもちいいな〜ってわけじゃあないけどさ。
　ここまできもちわるいわるいってほどじゃないと思うのは、ヘイムさんが造ってくれたブリキのからだのおかげなのか。
　それとも、ボクの育ちのせいなのか。
　はたまたユノたちケイヤクしているエンブリオのせいなのか。

「やっぱり一度出るぞ！！　ちょっと新鮮な空気を吸いたいぞ！！」
　とにもかくにも悲鳴があがり。そんなこんなで、出口をわたわた探しつつ。
　いわゆる“キブンテンカン”とか“ココロノイヤシ”なるものをしに、森へとやってきた。


「ん〜……いい気持ちだなあ！　身体が伸ばせるっていいな、ここ！」
　森の中、うっすら上には霧も見える。
　そこかしこには緑が見え、花もちらほら。地下牢や枯れ地とは全然違う、いのちがいっぱい感じられる場所。
　こんだけの感覚何日ぶりだろ……みんなして、思い思いに満喫しつつ、身体をグーッとのばしている。
　何だか約一名――約一匹？　あれってからだ伸ばしてるのか？　な感じのもいるんだ、けれど……。
「うん……きらくだよにゃ」
　白いふかふかな長い髪と尾が、いくつもいくつも束に分かれてごわっとして、ふかふかふわふわ浮いている。
　その約一名――マシェはフェアリーと結構深くケイヤクしてたし、今まで枯れ地＆地下牢で枯渇してた“いのち”がここには多い。
　だから、そのせいなのかもしれない。


　だいぶ変わったけど。
　あれで、マシェって、ちゃんと認識されるの、かなあ……？

「でもマシェのその恰好にびっくりして、ユニコーンとかは逃げちゃったみたいだけどな！！」
「う……会いたかったにゃあ……」
　千巌やボク・サヤにはちゃんと認識されてはいるものの、いわゆる”異形のもの”になっている。


　そんなことを言ったら、ボクもそうなわけだけど……。
　ふと、自分の姿を見る。

　ひとのように曲がるし、動き、考える。されど人の形をしているだけ。
　人の形をした、ブリキのからだ。
　ボクは元は人だけど、もう人とは言えない。
　異形のもの。


　異形のモノは弾かれる。
　それは、賞金首であろうとなかろうと。
　一揆に参加してきたこの10日間、街や広庭とかとか、メルンテーゼの方々でたくさんたくさん見かけてきた。

　異形のモノは存在する。
　ユノやルベウス、ショウといったエンブリオだって、ニンゲンから見たら異形で異質だ。
　あいつ等は、自分の好きに、もしくはちゃんとケイヤクをもってボクと一緒してくれてるわけじゃ、あるんだ、けれど。

　でも中には、負け捕まった瞬間ぐちゃぐちゃにされ、いのちとちからを奪われてるモノだっている。
　でも中には、ぼけらっとして捕まった瞬間見世物として、もしくは道具として扱われるモノだっている。


　そういうのって“運が悪い”っていうんだろうか？
　そんなことは、もちろんない。

　でも、そういう危険がなかった異形は、大概はぽけぽけのほほんしてる。
　だって、あぶないとか、きけんとか、しらないから。

　ボクもせかいのことをすごくたくさん知っているか、って言われたら。それは確かに違うっていう。
　だけど。


　たぶん、あいつ、ほどじゃない。


　森の中。
　さわさわした風が運んできた薄花の匂い、ちらりと見せてくれた一瞬の姿。
　今はもう葉と枝に隠れて見えない、その方角。
　ゆっくりと腕をあげて、指をさし。
　全員の前で、ちょっとだけど、ボクは珍しく、ことばを口にした。

「あそこ、に、いるのって、龍の、子ども？　じゃない、か？」
「ん？　なんだ？　ソウがしゃべるのって珍しいな！！
　どれどれ……そっちは……なんかキラキラしたキレイなのが見える気がするな、なんだあれ！」

　キラキラしたのはボクには見えな……あ、みえた。
　ガラスのような何かが一瞬だけ森の中空に出たと思ったら、ちかっとしてまた消えた。もうどこにもない。
　今までメルンテーゼで見たことない、なんか変なキラキラだ。

「りゅ、龍以外に……なんだか、氷と、花の、カンカクも、するにゃ……」
　氷と、花……？
　一瞬見えたへんなキラキラと、なんか関係でも、あるのかな……？

　でもとりあえず言い切れることがある。
「あの、龍。なんか、ぽやぽやふわわって、してた。
　でも、傍の龍？　に、なんか、すっごく、護られてた、よ、ね」
「傍にいた青い龍は魔獣であろう。死生のハザマに居る魂喰らいの魔犬がごとき匂いがする」
「じゃあ、龍は、どちらも、異形の、龍、か」


「龍のいのちは――とっても、つよい、のだった、よ、ね」


　以前、ショウが言っていた。
　ちゃんとした龍っていうのは、自然や不死の象徴としてあがめられていたのだって。

　すごく、いのちのちからがつよいのだって。

　だから、すごく強大な力を持っているらしい。
　……のだけど、護られたり崇められまくったりしてるせいで。


　とくに子どもの龍は、いわゆる、危機管理がなってない、世間知らずなのだって。


　ボクみたいな農奴で乱暴にされたのでもなく、千巌みたいな野ざらしで捨てられたのとは違って、大事に大事にされてきたから。
　だから、こわいもあぶないも知らなない箱入りの……世間知らずなのだって。　

シャリン――、シャリン――
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン――、シャリン――
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。

シャリン――、シャリン――
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン――、シャリン――
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。

System Message : M.E.E.駆動...出力...30%...40%...50%...M.E.E.戦闘出力確保......