［基本］OK.　［戦闘］OK.　

むかしむかし、あるところに1匹の小さな怪獣がおりました。
怪獣は周りより強くなく、いつも守ることでやっとでした。
そんなある日、ヒトが持ち込んだヒーローに怪獣はやられてしまいます。
怪獣は大事にしていたモノをみんな壊されて。
周りの怪獣にもバカにされて。
しまいにはゴミの山の上。火の海の中にすてられてしまったのでした。

怪獣はたった1匹、さみしい思いを抱えたまま、目を閉じたのでした。

…………
……
…

目を覚ますはずなんて、無かったのだ。
いや、まずそもそもの話。
『目を覚ますかどうか』を考えている、”意識があるコト自体”がおかしいのだ。
イヤな予感がして、瞼を開けてみれば。ほら、案の定。



望む余地なんてあるはずもなかった、歓待を受けたのだった。

「……っ、オマエは！」
「ケムルス！ああ、よかった！」
「小生は良かったも何も無いっスが！？」

こっちは勝手に起こされたのだ。どういう原理かは知らないが。
抱きつかれたままでは話もできないので、無理やり引き剥がして真っ直ぐ立たせてやる。
目を潤ませながら向けてくる視線が、ボロボロな服装と相まってなんだか痛々しい。

「チハル、オマエ一体小生に何をしたんスか」

異能の力によるものだとはおおかた理解はできた。
だが相手から帰ってきた言葉は、予想とは反していた。

「……だってまだ、何も言えて無かったから」
「……は？」

「やっと思い出したのに……感謝もできてない、まだまだ沢山話したかった！
　なのに勝手に騙して、勝手にいなくなって……私だって、これくらいする権利はあるよ」
「オマエ、何言って……」
「だから、私が全部引っ張ってきたの。この辺にあった黒い靄、全部……あなただったんでしょう？」
「靄？」

靄。何のコトかと朧気な直近の記憶を辿ってみる。
吐き出した黒煙とは違うモノとすれば、片隅にふと浮かべるコトができた。
「ああ……」
普段の姿とは違う、巨大な怪獣の姿になるときに身体を形作るモノだ。
ヒトの言葉で似た意味を探すなら、『魂』と言うのか？

だが、あれは至天様の加護無しに制御できない。
要するに、持っていたパイプが壊れた時点で『普段の姿に戻るコトはできなかった』はずだ。

「オマエ、引っ張ってきたってどういうコトっスか？」
「だから、近くにあった適当なぬいぐるみに、私の異能ごと全部丸め込んで……」



「は……はああああ！！？？
オマエ、小生相手に不敬にも程があるっスよ！？」
「で、でも、そうじゃないと元に戻せなかったんだけど」
「元に戻せなんて小生は一言も……！」

言いかけて察した。
己の意識はある。チハルの意識が介在している感覚も無い以上、別個の存在である。

ああ。
つまり、同じコトをされたのか。
自分自身を核に、チハルの異能を利用して身体を作ったことで、雲谷煙次ひとり生かした原理と同じだ。

ヒトひとり生かす以上のコトを考えて無かった自身も我ながらバカらしいが、余剰分が残っていた。
そして死んでハザマの養分になるはずの残った余剰が、こうして淵でまんまと生かされてしまったワケだ。
そこらへんの玩具を核代わりにされたのが激しく不愉快だが。

「はああ……もう、なんなんスかね」

怒る気が一気に失せて、赤い地面を眺めるように項垂れる。
御影千晴は、おずおずと自分の様子を伺っていた。

「ねえ、ケムルス」
「何スか？」
「ちょっとだけ、話をする時間があればいいの。終わったら、私のそばから離れていってもいい」
「……はー、勝手に生かしておいてそれっスかあ？」
「うん。私はたとえアンジニティで一人でも……大丈夫だから」

「……しょうがないっスね。精々たっぷり話してやるっスよ
どうせ小生には、他に何かする予定も無いっスから」



120日後。
アンジニティに落ちたイバラシティの住人が困惑に惑う声の中。
1匹の小さな獣と1人の少女が顔を合わせて姿があった。

「おはよ」
「ああ……おはよう、っス」



「それじゃあ、行こうか」
「言っとくっスけど、小生は道案内はゴメンっスからね！」

惑いもない歩みで、いずこかへ。

―――――――――――――――――――――

雲の無い夜闇の合間に、ぽっかりと月が浮かんだ夜のこと。
彼女を境内の入口に誘い出した男はお目当ての相手が来るや、照れ隠すように顔を覆った。
くくりと笑う声が大きく漏れて聞こえてくる。

やがてそれが静かな場所で響くことのほうがよほど恥ずかしいと悟ってか、男は顔をあげる。
『あれから何も変わらないように見える』男は、ニッコリと笑い掛けた。




気まずい表情をしてから、相手を覗き見るように尋ねる。



そう言いながら、男は懐から黒いケースの小さな箱を取り出していた。
近くに歩み寄って、中身を見せるようにして、そっと小箱を開く。


銀の一輪が、月明かりの元できらりと輝く。
桜の花弁を模してできたそれを、彼女の前にいっそう差し出す。



息を呑み、相手と対峙する。


* * * * * *

時は現代。
大八洲の片隅で、ひとつの噂が流れ込んでいた。

夜の帷が降りる頃。
妖怪を束ね、百鬼夜行をする怪がいる、と。

しかし、連なる鬼どもは人に一切危害を与えることは無く通り過ぎていく。
やがて朝日が昇る頃にはぱったり、まるで煙のようにいなくなってしまうのだという。

率いる怪、
曰く、「神にあらずも神の力を感じられ」
曰く、「人に見えて人にあらず」
曰く、「妖に見えて妖にあらず」。

退魔師の噂にぽつりぽつりと聞く『鵺』の所業であったが、
しかしある夜を境に、ぱたりと消えてしまったのでした。

はてさて真相は知る人のみぞ知る、宵の闇の中。
物語も一旦ここらで終いでございます。

ENo.115 BCカルテット とのやりとり


ENo.158 退魔師の師弟 とのやりとり


ENo.426 アストロイェライ とのやりとり


ENo.755 シバ とのやりとり