［基本］OK.　［戦闘］OK.　

手を片方ずつ握って開く。
腕を前と後ろに回す。
脚を片方ずつ上げて下ろす。
体を右と左にひねる。
首を右と左に向ける。
手の上で炎を出して消す。
足元の土を浮かせて落とす。
かすり傷を覆って治す。
体から苗を芽吹かせる。

私の体が出来ることは、今も問題なく出来ている。
ハザマで異能は強められたが、それでもそう大きく変わりはしなかった。



戦いは終わった。
世界の入れ替わりが120日後に起きるとアナウンスがあった。
……このハザマにいる私が今後どうなるか、ここでの記憶は消えてなくなるのか──
そうした話は未だに知らされていないが。

いずれにせよ、イバラシティの樟陽雨の環境はこれから大きく変わる。
アンジニティの知識は向こうの住人から得たものを含めてもそう多くはないが、
命を落とす危険がイバラシティよりもずっと大きいことは窺い知れる。

それでも、ハザマにいる私もイバラシティの樟陽雨も、
この体がある限りはそう簡単に倒れはしないだろう。



私の体には、私の欲も入っている。

生き物を植物の姿に変えたい。
幹、枝、根、葉、花、実……その美しさを余すことなく引き出し、見届けたい。
それはこれまでと変わらない。おそらくはこれからも。
この欲とは、どこまで行っても付き合うことになりそうだ。



イバラシティの住人が全てアンジニティに移動する。
様々な異能を持った者が全て。
それは向こうでもイバラシティの住人による社会が形成されうるということでもあるし、
イバラシティで抑えていたものが向こうに噴出するということでもある。

そうした中で、私はどう振舞うか？

このハザマにも、形や規模はどうあれ社会や秩序はあった。
アンジニティにもおそらく同様だろう。
そして住人の移動によって新たな社会や秩序も出来ていくだろう。
きっと、その社会の中で生きていくほうが、これまでと同じくより生き延びやすいだろう。
自身の欲の向くままに生きることよりは。
残念でもあり、納得でもある。

もしもここでの記憶が消えてなくなるとしたら、
イバラシティの樟陽雨も同じ決断に至ればよいが。
それは向こうに委ねることとしよう。



今はただ、このハザマでの時を過ごし、待つだけだ。
行かなかった場所をつむぎと巡るなり、ゆっくりと休むなり、好きに過ごしてもいいだろう。
話していなかったこともたくさんあるのだから。

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