［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

――即ち、最初から俺だと思っていたのは真に俺ではなく。
イバラの写し身が投影され、【明けの幻海】としてずっと俺の側にいて、それに欠片も違和感を覚えなかったのは、俺が“俺”であるが故であり。

「……つまり、俺の向こうの写し身はどこにいるんだ」

捨てた人間性の一部を拾い、【鈴のなる夢】は口を開いた。未だ巨大で破壊を齎す姿のまま、中途半端に浮いている。
悔しいことに、彼らの言うことは全て分かるのだ。自分ならそうする。自分ならそうした上で、手を探す。その手を全て使い切る前に、出られるのであれば御の字。
死にたいのだ。できるだけ正気のうちに死にたくて、しかし全ては狂気に上書きされていった。死のたびに重なる狂気に自分が耐えられるわけがなかった。他人から押し付けられる狂気で、全ての破滅を生み出したのだから。

『……どうなんやろ？でも、俺は“俺”だしなあ』
「ああ、それだけど、たぶん俺だわ」
「は？」

威嚇するように口を開いた声に、肩を竦めながらクロシェットが応じる。

「俺の座る椅子が初めから空いてたってことさ。そう言われたら想定の範囲内だろう」
「……。……だから特に齟齬がないわけか……」
「何か別の世界の俺がいてちょっと面白かったけどな」

例の大学の一行はほぼ撤退の準備を整えていて、時が来たときに立ち去るのだそうだ。
それと同時にうまく外に出ることができたのなら、自分たちも疾く立ち去るだろう。――まだ正気のうちに死ぬために。ここで得た正気を失わないうちに。

『あははあ。でも、ほら。次はあなたの番や』
「何が……」
『その狂気も置いてかん？』

沈黙。
信じ難い、とでも言いたげに、ぎょろりと目が見開かれる。

「何故」
「……」
「何故そこまで面倒を見られなければならない！？それは、それは俺の自己だ……存在意義だ！！」

――この男は、落ち着いた顔の裏に数多の狂気を飼っている。生前からそうで、死んでからもそうだった。狂気と怒りだけが全てを突き動かすような男。常に怒り狂っているのに蓋をして、まっとうな人であることを繕い続けていた男。割れ鍋に綴じ蓋とでも言うしかない、明確な“不可能さ”がそこには存在していて、結果としてその中身は何度も溢れさせてしまった。ここに来たばかり、ほんの一日と半日前ですらそうだった。
恵まれたことがあるなら、恐らくはその頭脳だけ。それですら上から叩かれ何の意味も成さずに屍と化した。無意味であるということを抱えたまま歩き、意味を見出したところで、炎に焼かれてさらに狂った。

『……だってなあ。死ににいくんやろ？』
「そうだが」
『いらんもんは置いていった方がいいんじゃないかなあ』

不必要なものではない、と言いたかった。
それがなければ決して形作られることのなかったもの。決してこの形で生まれ落ちることのなかったもの。それが己だ。
けれども、穏やかな終わりを渇望している自分もいた。

「……」
『俺は“俺”やからね、わかるよ』
「……全てを置いていくわけにはいかない。俺の根底にあるものだけは手放さない」

強く死を願ったこと。強く破壊を求めたこと。あの日死を選んだこと。手放したくないもの、手放してもいいもの、狂気の群れに静かにタグをつけて、大きく息を吐いた。

「あと少しだけ」
『うん。俺も同じように、作り直しや。俺が大事に持っているから、俺は遠くに行ったらいいんよ』

ああ、そういうことを考えるな、と。自分でも恐ろしくなるくらい冷静に思っている。
余計なものは置いていく。必要なものだけ持って、限りなく人に近い状態で死ぬ。――そのためなら何でもする。
放棄こそするが、集積した今までの情報はただ放棄するには勿体ない。ならどうするか……新しい記録媒体を作ってしまえばいい。それが吉野暁海であり、【明けの幻海】だ。
あの本は、自分たちの世界においては、願望の具現を行うマジックアイテムだった。その願望によって生まれた結果がどのような形であれ、生み出されたものを良しとする。タダで思い通りになるような便利すぎるものは存在しないように、呼ばれ、そして身代わりは意思を持つ。完全な意思なきものを生み出すような、完全な願いの履行なんてしてくれない。それがあの時得た権能なら、それもまた、放棄したいが口惜しい――そう思っていたことを見抜かれているのだ。もっと正確に言うのなら、自分の分け身なので理解している。

「あーあ。なんでこんなところにばっかり出会すんだかね」
『何言っとるん。自分から来たんやん』
「……チッ。こいつ何だかんだでよく頭が回るな」
「まあ、俺だからな……」

まだ全てが明らかになったわけではないが、【鈴のなる夢】に集積され、そして具現化された力は、十二分に“ズルをする”には足りていた。二人分のズルをして、どこかずっと遠くへ行くだけなら、何もかもが余る。
ズルを見守り、何かあれば成り代わって処理をする。ただそれだけのことのようで、誰にも代わりができない、そのためにここにいる。
死んでくれるのならせいせいする。その気持ちに嘘偽りはなく、これからもただぼんやりと流浪し、生きていく。ひとつ区切りがついたのなら、このスケープゴートも不要になるだろう。

『俺は恵まれていたと自分でも思うから、なんもなくとも平気やよ。恵まれていたという事実だけで、その狂気に蓋をできる』
「……どこからその自信が来るんだか……」
『俺がほんとに俺みたいな生活していたら、絶対そう思うに決まってるで？』

得意げな顔をしているのだろう【明けの幻海】に、【鈴のなる夢】は深く息を吐く。

「……じゃあ、とっとと譲渡するよ。俺には過ぎた力だ」
『どう使ってもいいやんな？』
「……いいよ。元より火に焚べてしまって捨てるつもりだったんだから」

大口が開かれる。
荒れた大地に一人の人間が吐き出され、それはしばらく俯いていた。

「……出た」
「……は、久し振りだな。クロシェット」
「あんまりお口が悪いとまた死にそびれるぜ」

肩より長く伸びた薄緑の髪をまとめ、上着のポケットに入っていたゴムで結ぶ。
目の下を一撫ですると、そこに眼鏡のフレームが現れる。そっと掛けると、今は特に意味のないレンズ――の代わりに、ただの薄いアクリルの板。

「……久し振りだな、眼鏡かけるのも」

中指で鼻当てを押し上げる。
切り取られたような視界に、特に不便さは覚えなかった。慣れ親しんだものが戻ってきただけなのだから。



切り離された力を手にした獣――もとい、【明けの幻海】は、相変わらずその巨体を保ったまま、一方で獣の姿もそのままに、気配の少なくなった空間を歩んでいる。
初めからここにいた。初めからずっと見ていた。だから迷いなく従い、俺が“俺”だと誤認――いや、事実そうなのだ、俺はずっと“俺”であり、狭間で統合されなかった代わり、茨の椅子に一人分の空きができる。そこに座ったのが、“一人目”のクロシェット・アストライアー・スケープゴートだ。
“二人目”である吉野暁海は、この何か大きな流れが始まったときに世界によって自然と生み出されたが、反転した世界では投影先が何故かどこにもなかった。故に、分離された獣として振る舞っていた。恐らく、咲良乃スズヒコという男の鏡写しになれるのはクロシェットだけなのだ。クロシェットの椅子が用意されながら、そこには誰もやって来ない家庭で、兄として振る舞い続けていた。
吉野暁海の記憶を受領するのはもちろん側を行く獣だったが、獣と【鈴のなる夢】はその記憶を共有する。そこに違和感や齟齬は発生しないまま、この時間までを過ごしてきた。

「……」



ずっと違和感を覚えていた。
もし、咲良乃スズヒコが真に投影されるのであれば、自分のような造形をしただろうか。父親として振る舞っていたかもしれないし、もう少し冷酷な兄として振る舞っていたかもしれない。その答えはもう出す必要もなく、ただ待つだけになった。

「おい、ヨシノ」
『うん？呼んだ？』
「あんたはどうするつもりなんだ」

青い瞳が、鋭く虚を捉えている。
咲良乃スズヒコの行くべきところは定まっているが、吉野暁海のそれは何一つ定まっていなかった。そもそも、世界がどうなるのかすら分からないのだから、それを定めたところで無駄になるのかもしれない。そう考えていた。

『……なんも……なんも決めとらんなあ。とりあえず、外に送ってやって。……それしか、決めとらん』
「一人ぼっちは案外寂しいぜ？」
『うーん……でもなあ。俺まで外に出ていくようなこと、できるんやろか』
「さあな。そればっかりはなるようになってみないと分からねえけど」

自分も、彼も、一つの側面だ。特定の方向から見たものだけを削ぎ落とした結果が自分たちだ。故に不完全であり、どこかへ出向くなどもってのほかだ……と、そう思っていたのだ。

「案外その辺フラフラするのも楽しいぜ？」

不完全性は、行動によってのみ補われる。
不完全だからこそ、これから足していく余地がある。

『……考えとくわ』
「俺と一緒に来るとかいうのは普通にやめてくれ」
『せんよそんなん！俺だって行くならひとりで行きたいわ』

その夢が閉じられるのなら、その次にやってくるのは夜明けだ。夜明けに静かに漂うのが、明けの幻海であり、閉じられる夢を送り出すのも、穏やかに揺れる波だ。

「まあ夢見るだけタダ、ってこと」
『せやなあ。俺、今の格好で人になったらどんなんになるんやろ』
「やってみれば？」
『まだせん！やるなら最後にやるって決めてるん』

やりにくいな、と思っている。クロシェットの皮肉が全く暖簾に腕押しで、跳ねっ返りがないから全くつまらない……というか、かなり困る。
これ以上関わる予定も、これ以上働くつもりもない。ただ、突き刺さった茨の棘だけはしばらく抜けそうになく――要するに、まだ働きかけが必要そうだ、というわけで……そう思われていることも、別に何とも思っていないのだろう。巨体は目を閉じたまま、何となく穏やかに見える顔で浮いているだけだ。

「……。……やるならやるで挨拶くらいしとけよ」
『いるかなあ。分かってくれへんかな』
「煙草くせえ方は言わねえと分かんねえよ、俺たちじゃねえんだ」

ずっと遠くで尽きる炎を見送るために、【明けの幻海】は静かに理論を組み立てる。
遠く、遠くで、誰にも迷惑を掛けないように。そしてそこで、何の躊躇いも心残りもなく、文字通り燃え尽きることができるように。
炎に始まり炎で終わる、どうしようもなく冷徹で、どうしようもなく自分勝手で、どうしようもなく狂っていた話を、静かに閉じるために。そのために生まれ、呼ばれてきた。
だから、橋渡し役として、最善のものを提供しなければならないのだ。

（トシ、ごめんなあ。俺、お前の兄ちゃんとしては普通に最悪や）

慮る家族などいない。
代わりになるかも定かではない、橋渡しを全力でこなすだけの存在。吉野俊彦がどうなろうと、吉野暁海はあの世界から消えるだろう。そもそも、弟に対して何か発生するのか、欠片も考えたことはない。だから何も分からないままだ。
誰にも代わりができないように、誰の代わりにもなれやしない。虚構の兄弟は静かに破綻するだろう――恐らくは、だが。
そうして、【明けの幻海】はただ浮いているだけになる。静かな水面の下で、ずっと考えを回し続けている。

ENo.502 ナックラヴィー とのやりとり


ENo.909 グノウ とのやりとり

フェデルタ(165) から 炎封石のおまもり を手渡しされました。

グノウ(909) から 銀の義眼 を手渡しされました。

カニが泡を吹いて倒れる。

泡に紛れて、小さな光の玉が飛び出て空へと飛び去っていく･･･

ラス(1320) から 水の光焔 を受け取りました。

呪術LV を 15 DOWN。（LV15⇒0、+15CP、-15FP）

命術LV を 20 UP！（LV50⇒70、-20CP）
武器LV を 10 UP！（LV81⇒91、-10CP）

ラス(1320) の持つ ItemNo.11 立派な象牙 に ItemNo.31 神舐瓜 を合成し、活力漲るモアイ像 に変化させました！

ロッテ(948) とカードを交換しました！

リザレクアロマ （ユグドラシル）


メメントモリ を研究しました！（深度0⇒1）
メメントモリ を研究しました！（深度1⇒2）
メメントモリ を研究しました！（深度2⇒3）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

フェデルタ(165) は 立派な皮 を入手！
グノウ(909) は 朱の光焔 を入手！
グノウ(909) は 立派な皮 を入手！
フェデルタ(165) は 強固な甲殻+1 を入手！
スズヒコ(244) は 強固な甲殻 を入手！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

『ツクナミ区 K-2：チェックポイント《小集落》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - グノウ(909) の選択は ツクナミ区 K-2：チェックポイント《小集落》

MISSION!!
タニモリ区 P-4：草原 を選択！
　　 - グノウ(909) の選択は タニモリ区 P-4：草原

［792 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［433 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［464 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［201 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［399 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［326 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［267 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［197 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［117 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［147 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［152 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［310 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［49 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［225 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［106 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［110 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［112 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［56 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［88 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［81 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［16 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［100 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［45 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［92 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ
［100 / 100］ ―― 《白い渦》不幸
［100 / 100］ ―― 《黒い渦》不運
［21 / 100］ ―― 《線路》駆逐



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

星空が映る。

　

微かな波音と共に、弦楽器の優しい音色。

　

　

　

星空のなかに、黒い裂け目。

　

その裂け目にいくつもの小さな光の玉が吸い込まれてゆく。

　

　

　




　




　

　

　

チャットが閉じられる――

何もない、草原。

　

その中で異常に生い茂っている場所。

そこから顔を出す――

　






　

ゆっくりと目を開き、こちらに気づく。

　




無表情のまま、笑い声のようなものを発する。

ゆっくりとこちらへと歩みを進める。

　

少女の歩みを追うように、茂みが作り出される。

･･･身体中が危険を知らせてくる。