［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

静寂。痛みは通り過ぎて、ただ無だけがあった。
ごぼごぼと水の音がする。
水の中にいるはずなのに不思議と苦しくはなく、ただ動かない身体と、唯一生きている聴覚が、その音だけを捉えている。
誰の声もしない。誰の声もせずに、ただ水の音だけが聞こえていた。何の記憶もなく、反応をすることもなく、感じることがあるとするのなら――肉体を引き千切らんとする勢いでの再生。しかしそこに痛みは欠片も存在せず、ただ肉が盛り上がっては神経が飛び出して接続し、骨が不自然な勢いで伸びている。
空いた穴を、千切れた腕を、失われた目を、全てがまるで時計の針でも巻き戻すかのように、戻っている。戻りつつある。

（ここ、は……）
『痛いより、痛くないほうがいいやんね？』

声はどこから聞こえるというよりも、己を包み込むようにあらゆる方向から聞こえてきた。
穏やかな声。穏やかさの中に苛烈さを孕んでいたそれとは、微かに異なる声。

「……」
『だってねえ。普通、死んでしまうような傷やから』

薄く目を開くと、そこには青色しか存在しない――否。よくよく見れば、壁が透けている。瓦礫の山、赤黒い空、そしてそれらを見下ろしている高い視点。

『楽な方がいいに決まってるんよ。“俺”は多分百回くらい苦しめと思うてるかもしれん』
「……あなたは」
『……“明けの幻海”とでも名乗っとこかな』

声の主の姿はどこにも見えない。ただ同質の、けれども種類の違う声が空間に降り積もっている。そもそも、自分が一体どうなって、どうなったのか、何一つ分からないでいる。
“明けの幻海”と名乗った声の主は、ひとつ息を吐くと、こっそりと囁くように言った。

『俺も、こうなるとは思わなくて。けどまあ、なっちゃった以上は、ちゃんと最後まで面倒を見るよ』
「……と、申されますと……」
『ここは【鈴のなる夢】の腹の中にして、胎の内。あなたは今、生まれ直すための準備をされている』

その戻っていく傷が全ての証拠だよ、と言い終わるのと同時に、眼窩に眼球が収まって、グノウ・スワロルドは視界を取り戻した。胎内というには青すぎて、現実味の全くない、ただ水に浸っているだけの空間がそこにある。

「生まれ直す……」
『そう。蝕まれていたところは全部取った、って言うてたからね。足りないところは補って返すのが筋でしょう……って、【鈴のなる夢】が言ってる』

その真っ青な空間の中に、同じように眼鏡の青年が座っていた。
帽子を被り、同じ形の眼鏡を掛け、――【鈴のなる夢】と逆の配置のオッドアイ。帽子の下から覗く金色の髪の毛の中に、薄緑の束が存在していた。

『呼ばれてしまったんよ』
「あなたは……確か」
『そう。俺は向こうの【鈴のなる夢】やけど……全部、うん。本当に全部や。全部をあなたにつぎ込んだから、何も残んなくなって』

当然のように語られる言葉と、自分の価値を比べる。
死にに行くだけだからちょうどいい。どうせなら半殺しくらいになっていた方が都合がいい。果たして自分はその犠牲に相応しいのか？というのを、考えるよりも早く。

『そうやね、カッコよく言うなら代弁者！』

青年が胸を張るのと同時に、その帽子を取り払った。
【鈴のなる夢】の折れていた右の角が、そこに存在していた。

『あなたにどうしても言わんとならんことがあるけど、俺はあなたの肉体を十全にするのに忙しいから代わりに話せって言われてな』
「……はあ」
『あー、あとあと、拒否権もないって。拒否したら痛覚のスイッチを入れる言うてた』

半分水に浸かったまま座る“明けの幻海”を見、グノウは身を起こそうとする。
それは手の一翳しでぴたりと制され、動くことそのものを許されなくなった。

『怪我人は安静にさせろとも言われてんねな、ごめんね』
「……それで。話すこととは」
『せやね。俺もやりたいことあるし……ここだけ先に話しておこかな』

年若い顔の目が細められると、それは【鈴のなる夢】の顔によく似ている。
彼の若い頃にお目にかかる機会があるとしたら、そっくりそのままこの姿だろう、という顔。背丈もおおよそ同じくらいに思える。

『あなたのことを呪うよ、って』
「……私を」
『死の呪いやなくて』

呪い――即ち“のろい”か“まじない”か。災厄や不幸を齎すものが前者であり、後者は祈りや不思議を用いたものも含まれる。
不死王がグノウ・スワロルドを乗っ取るため、即ち彼とその周辺に不幸を齎すために呪っていたのだとしたら、【鈴のなる夢】は不思議不可思議を駆使した祈りを齎す。
ごもっとも、【鈴のなる夢】の場合は災厄の意味合いで後者を振りかざしているような気配があるが。

『これからも生きていけ、生半可なことでは死なせん……そういう意味の呪い。名付けが呪いであるように、これもまた儀式で呪いである……』

名もなき夜風に名を残し、それを呪いとした。
名前が最も簡単で手頃な呪いとなることを、【鈴のなる夢】は知っていた。

「つまり、私は、これからも坊ちゃんと生きていけと」
『うん、そう！俺たちの目から外れても、そう安々と死なせはせんよって息巻いてる。……これだけ手をかけてやったんだから当然だ、ってさ』

生も。死も。何れも等しく呪い足り得る。
死んだときにそれを感じて、無力を嘆き、偽りの生を得、そして全てを引き受けた。
繋がりもまた呪いとなって、数多の世界を歩き続けるたび、ただただ無力であることを悔いた。
ならば、生きながら死に向かっていた人間に、与えるものは呪いだ。

「……私に……私ごときに、そんな……ッ、ぐあ……！！」
『ほら、言ってるそばから怒っとるよ』

腹部に鋭く痛みが走り、グノウは蹲るように水の中に深く落ちる。
【鈴のなる夢】は聞いているのだ。“明けの幻海”は正しく代弁者で、そして【鈴のなる夢】そのものだ。

「……わた……私は……」
『……生きるんよ。生きて、生きて、まっとうなところで、ちゃんと見守られて死ぬんよ』

深い青色。
まじまじと見た覚えはないはずなのに、これはあの人の色だと感じさせるような色。

『俺みたいに逃げることを選択しないで、あの人みたいに恨まれもしないで、生きるんよ』

その中に唐突にパレットが浮かび上がり、そして筆が滑るように動くと、あの日々――あの分割世界のことが鮮明に思い出される。
うさぎの耳を持つ少女。食べられない草。不思議な人形。離れて行動したあのとき。そして遭遇した、黒いもの。

『……ね、呪いみたいでしょう？』
「……。……全く、その通りですね……」

乗り越えるためにここまで来たのなら、異能で因果をも捻じ曲げる。
増幅された力が迸り、結果としてここにある。持っていた全てを吐き出した本と無言の神は、最後の一仕事を静かに待っている。

「ところで……ここからはいつ出してもらえるのですか」
『うんとね、外側はだいたい治ったけど内臓が全然まだやから、もうちょっと我慢してねだって』

それまで話し相手くらいにはなれるよ、という“明けの幻海”に、グノウは肩を竦めた。



気が狂ったように炎を探している。
炎を探さなければならない。
炎を探して、火種に叩き込まなければならない。何度もやった歪んだ輪廻の形のひとつだった。
本当は分かっていて、今引き摺り戻すために彼を向こう側へと派遣した。それだけのことだ。けれども、近くにあるようでないだけで落ち着かず、戻ってくると分かっていても焦燥感に駆られ、気が狂いそうだった。――実際に狂っていたのかもしれない。

『……だから、俺を呼んだんか。代弁者だけじゃなくて、もっと大事なことを託そうとしている』
「……！」

閉じられていた瞳がぎょろりと開く。声の主は見つからず――いや、はじめからそうだった。ここで見つかるわけがないのだ。
俺そのもの。俺の写し身。あるいは、黒い獣。

『……分かっていたよ。よく考えてみれば、どうして“俺”は分離されていたんだろう？』
「……」
『うん、答える必要はない。俺がよく知ってるよ』

答える暇もなく、全ての力を一人の男に注ぎ込んでいる。
既視感。閉じ行く世界で全てを引き受けたときのような、逃げ道の一つ。スペア。用意して損はなく、むしろ用意することで安心して全てを振るうことができるもの。

『いいんだ。だって、俺は“俺”だから、理論はよく分かるもの。俺が存在しているからこそ、失敗のことを考慮しなくて済む』

昔々、無意識レベルのうちに生み出していた“スペア”はこちらを憎み、生贄とされなかったことに怒り狂い、執拗な追いかけっこを繰り返した。
今は和解というか、互いに諦め、不干渉、別の存在であるとして、異なる道を歩み始めた。そして、異なる道はごく一瞬だけ交わり、それで終わる――はずだった。

「あんたはどこまで行っても自分の計画を完全なものとしたいらしいな。そして俺の次はそいつ……まあ、無理もないかね？」
『クロトさん。いつの間に？』
「ああ、いつの間にかさ。こういうことに出くわす天才でさ」

巨体の瞳は、クロシェットを捉え直した。
いびつな巨体の前に立って分かる、ぼんやりと透けて見える一人の男の姿。今まさにプログラム的に構築され直されている、“かわいそうな”……“運が良かった”男。

「結局あんたはどこまで行っても、この世界からの脱出という根本を捨てられない。そして、脱出するときにここで得た力は別に必要がない」
『……そうそう。せっかく立派でカッコいい姿になったんだから、お見送りはせんとね』
「……カッコいいかこれ？やっぱ写し身だけあって趣味が一緒なのか？」

反論はない。もっと正確に言えば、反論する時間すら惜しいと思っているはずだ。
必要なのは、脱出することであって、力ではない。場合によっては、ここで得た力は全て使い切り、強引に脱出することになるかもしれない。そのために、代わりに力を行使する人格が必要だ。
その最適解は、向こうにいる自分の写し身だ。何故なら、あれは自分だからだ。考えを違えることはなく、寸分の狂いもなく、実行してくれるはずだ。

『俺は呼ばれたことには後悔してないよ。どうせ消えるのなら、役に立つ方が嬉しいし』
「……」
「光の俺め……って顔してんぞ。集中しとけよ」

何故今、というのは正直分からなかった。
今まさに自分の全盛期が来ていて、そのために引き寄せられたのか、クロシェットが何かしたのか、その他考えつくことがありはしても、その答えに至ろうとする暇はない。

「いいじゃねえか、最期まで生き汚くて。俺にはできないからな」
『もし俺が残ることになっても、俺は全然平気。――はじめからひとりだっただけで、全然変わりなんてないし』

“自分”たちが、全く思っていることと同じことを伝えてくる。
それもそうだ。かつて自分だったもの、今自分であるもの、――再び切り捨てていこうとしているもの。

『……同じことしかできないのか、じゃなくて』

【鈴のなる夢】は再び瞳を閉じた。
自分ではあれど、微かに違うものに代弁してもらうような機会がいつあろう。もう、二度と来ないに決まっている――何故なら。死ににいくのだから。

『それが俺の感じる最善なんや、ってことでさ。納得してもらわんと、俺もちょっと困るなあ』

最期まで生き汚くて、という言葉の意味を考えている。
けれども、それはそのとおりの意味でしかなかった。最期まで、ずっと、手を打ち続ける。それが、自分という存在なのだと。

フェデルタ(165) から 癒魔香【メディスパルフェム】 を手渡しされました。

グノウ(909) に ItemNo.19 黒龍の鱗 を手渡ししました。

ItemNo.23 癒魔香【メディスパルフェム】 を使用しました！
　魔香のため、体調は回復しなかった。
　今回の全戦闘において 回復57 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

フェデルタ(165) に ItemNo.9 ライター を送付しました。

命術LV を 5 UP！（LV45⇒50、-5CP）

グノウ(909) の持つ ItemNo.13 流星の懐刀 に ItemNo.3 榧 を合成し、流星の懐刀 を強化しました！（+45）
迦楼羅(931) の持つ ItemNo.13 強靭な皮 に ItemNo.26 ヘタ を合成し、活力漲るクーポン券 に変化させました！
スズネ(724) の持つ ItemNo.2 書類 に ItemNo.5 立派な皮 を合成し、活力漲るクーポン券 に変化させました！

フレッド(1720) により ItemNo.33 ライブライフレジストリクロー に ItemNo.3 山法師 を付加してもらいました！
　⇒ 博打付加！［ 4 2 5 = 11 ］通常付加
　⇒ ライブライフレジストリクロー／呪器：強さ1553／［効果1］回復55 ［効果2］回復50 ［効果3］自滅38【射程1】

スクライカー を研究しました！（深度0⇒1）
スクライカー を研究しました！（深度1⇒2）
スクライカー を研究しました！（深度2⇒3）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

グノウ(909) は 立派な皮 を入手！
スズヒコ(244) は ものすごいお肉 を入手！
フェデルタ(165) は ものすごいお肉 を入手！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

『ツクナミ区 K-2：チェックポイント《小集落》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - グノウ(909) の選択は ツクナミ区 K-2：チェックポイント《小集落》

MISSION!!
シモヨメ区 D-12：サンシャインビーチ を選択！
　　 - グノウ(909) の選択は シモヨメ区 D-12：サンシャインビーチ

［803 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［437 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［472 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［202 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［398 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［330 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［271 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［197 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［118 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［142 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［154 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［309 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［48 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［226 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［102 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［110 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［110 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［58 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［88 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［75 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［15 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［100 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［41 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［90 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ
［100 / 100］ ―― 《白い渦》不幸
［100 / 100］ ―― 《黒い渦》不運
［18 / 100］ ―― 《線路》駆逐



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

どこかの森のなか。

　





　

大きな木に寄り掛かり座る３人。

　













　

　







　

明るい声で話すふたり。




ふたりの手などを一瞥し、上を向き静かに息を吐く白南海。

　

　

　










　








そう言って立ち上がり、その場を去る白南海。

　












　

　

　

チャットが閉じられる――

サンシャインビーチ！

･･･という名も空しく、光のない暗いビーチが見える。

　

そんなビーチを活き活きと歩く、巨体。

　



こちらに気づいたのか、楽しそうに駆け寄ってくる！