僕は創藍高校2年2組、銭田葵。
もうすぐ学校をやめる。
理由はこう伝えた。
「急遽来年から実家の町工場に入ることになったから、今から修行する」……と。
……もちろん嘘だ。
「たまには遊びに行く」とも言ったけど、たぶんこれも文化祭までだろう。
僕は、僕が背負った物を清算しなければならない。
幼い頃から少しずつ重石を乗せられてきた。
正しい人間であることを望まれた。
まず、感謝しろと教えられた。
善意、謝罪、叱咤、あらゆる労力は僕のためのものだから、感謝して受け取るべきものだ。
忍耐強くなれとも言われた。
文句も口答えも、要らない感情も、外に明かしさえしなければ"ない"のと同じだ。
人を不快にするな。
よく尽くし人の役に立て。
そして……嘘をつくな。
僕は弱いやつだから、嘘をつかずに"正しく"あることはできなかった。
僕の内側にある僕の醜いもの。
欲望であり、攻撃性であり、黒く渦巻く負の感情、誰のためにもならない物、要らない物、
それを覆い隠すのに必死で、それでも溢れるものは止まらなくて、嘘をつくことに罪悪感ばかりが募る。
……気がつけば、僕は絵を描くようになっていた。
表現には感情が乗るけれど、言葉よりは甘い。
無心で色彩を選んで、模って、筆を走らせるうちは心が軽い。
僕にとって絵を描くことは、息を吸うのと同義だった。
でも、それも長くはもたなかった。
絵は人に見られることで、良し悪しとか、優劣とか、認められたりとか、そういうものがつきまとう。
なぜ、どんな思いで何を描いたのか、問われれば答えなければならない。
僕の生み出したこのよくわからない色の集まりに、僕は責任を持たなければならない。
同時に、僕ではない誰かが褒められたり、認められる姿を見るのが酷く、酷く妬ましかった。
自分の作り出すものに納得できなくなった。
それでも僕は絵を描くことをやめられない。
僕の絵が僕の意図しない形で捉えられても、
考えてもいない解説を求められても、
未熟さゆえに赤を入れられても、
努力が報われるような賞や証をもらえなくても……僕は感謝した。
それは成長のための糧であり、僕に労力を割いてくれた善意であり、受け止めるべきものである。
息を吸うためにはまず息を吐かなきゃうまくいかないのと同じで、
僕は、絵を描き続けているだけでは救われなかった。
小学六年生になる頃、父はそんな僕に新しい玩具を与えた。
霊能装甲・カクジャック。
僕の異能に寄り添う霊魂を原動力に、僕の抱く負の感情を材料に弾丸を補充する”兵器”。
僕は、それを身につけて『殴っても良いと思う悪』を殴りつけることで、僕の内側にある負の感情を晴らした。
父は、悪を裁くことは正しいと言う。
でも、正しさのためなら何をしてもいい、なんてことは絶対にない。
自分の感情を晴らすために暴力を振るうことが正しいはずはない。
頭の中でおかしいと思っても、罪悪感と自責のようなものが積み重なって体が言うことをきかない。
僕は弱く臆病で、抜け出すための決断も出来なくて、いつか本当に取り返しのつかないことをすると思った。
いや、もう遅かった。
そう思った頃には既に『殴っても構わないような悪』と『奪っても誰も咎めない命』をこの手で殺した後だった。
全てが遅い。何もかも。
ろくに中学にも通わず、自分が人でなくなるような感覚の中で、
僕がささやかに示した抵抗は『高校に通う』ということだった。
全ての呪縛を忘れられるような、平和な日常がほしかった。
高校に通うために色々なものを父に頼ったから
実のところ逃げ場は無くなっていったけど、少しでも事態が好転することを願った。
縋るような思いだった。
そうして入学したのが創藍高校。
手に入れた僕の高校生活は、明るいものだった。
心から大切と思える友達ができて、楽しいと思える日常を手に入れた。
僕の居場所はここにあると思えた。
……………
まあ、それも半分は建て前。
苦しみは募る。
幸せな日常であっても、欲望は、嫉妬は、罪悪感は溢れんばかりだ。それをひた隠しに生きるのが僕だ。
何度嘘をついたかわからない、1人で苛立っていたかわからない。
あいつらのことが大切なのは本当、それは本当だけど、消えてなくならない憎悪が、醜い欲望がある。
僕の心は永遠に楽にならない。
僕が楽にならないだけならそれで良かったのだが、
このどうしようもない心を夜な夜な暴力で晴らしている。
どうして僕は、生き甲斐であるはずの芸術をもとに弾丸を生成している?
欲しかったはずの日常で得た苛立ちを篭めて引き金を引いている?
……産石。
「学校をやめても変わらない」なんて、嘘をついてごめんなさい。
僕はあなたを好いています。
でも『あなたを好きな僕』のことをどうしても好きになれません。
このままだときっと、あなたと過ごすことで得た苦痛と自責と罪悪を以って兵器を振るうことになる。
だから、暇をください。
今こそ向き合う。目を逸らし続けた僕とあの男の過ちに。
"共犯者"は、真の悪を見定めた。
夜鴉が消えるまで
http://lisge.com/ib/talk.php?dt_p=5687&dt_s=0&dt_jn=1&dt_kz=50
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金色の系譜 - 敗走編 - Chapter 10 抵抗
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金色の雨が降り始めた夜、僕らは戦いの最中だった。
金色の雨を浴びた教団員のひとりが、肉体に異変を起こした。
両勢力、即撤退を余儀なくされた。
"染まりかけ"だった父さんは殺した。
しかし僕の攻撃はどうやら、完全に染まり切った金色の住民の前では跡形もなく消えるようだった。
まるで、絵の具を塗り重ねてなかったことにするかのように。
家の水道も食料も何もかもが台無しとなった僕は、カクジャックの装甲だけでかろうじて生き延びている。
このままではもう、ただ金色に染まるのを待つしかない。
セータ、あいつはまだ生きているはずだ。
今は僕らが争っている時じゃない。
何か、何か手立てを見つけなければ……
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→ Next chapter 代償
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「あー、うーん、イバラ僕がいよいよ極まってるのはまあともかく、 そもそも父さんって既に故郷で殺したんだよな。 まあ、あの後死体が消えてたからよくわかんないんだけど。」 |
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「何でこんなとこまで付き纏ってきてんだ〜!? つかマジでどこにいんの?」 |
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「やだな〜殺す準備しとかないと! やっぱ毒殺かな? 適度に苦痛を与えつつサッと死んで後片付けが楽なのがいいよね、どうせ食わないし。」 |
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(フランクすぎるじゃろ) |
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「……ん?
あー…………」 |
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「またこの立ちくらみか、最近多いな。 倒れるほどじゃないにしても、前が急に見えづらくなるのは非常に困るんだが……」 |
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(…………
アオイにいちゃんの親父……銭田道宗朗。 金色に蝕まれる最中に殺された人間。
そういった者がどうなるか、確かイヅカの記録にもあったような気がするんじゃが……) |

[870 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[443 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[190 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[380 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[296 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[204 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[143 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[61 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[123 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[108 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[129 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[12 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[37 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面に映るふたりの姿。
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エディアン 「・・・白南海さんからの招待なんて、珍しいじゃないですか。」 |
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白南海 「・・・・・いや、言いたいことあるんじゃねぇかな、とね・・・」 |
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エディアン 「・・・・・あぁ、そうですね。・・・とりあえず、叫んでおきますか。」 |
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白南海 「・・・・・そうすっかぁ。」 |
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白南海 「案内役に案内させろぉぉ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「案内役って何なんですかぁぁ―――ッ!!!!」 |
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白南海 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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白南海 「役割与えてんだからちゃんと使えってーの!!!! 何でも自分でやっちまう上司とかいいと思ってんのか!!!!」 |
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エディアン 「そもそも人の使い方が下手すぎなんですよワールドスワップのひと。 少しも上の位置に立ったことないんですかねまったく、格好ばかり。」 |
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白南海 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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白南海 「・・・いやぁすっきりした。」 |
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エディアン 「・・・どうもどうも、敵ながらあっぱれ。」 |
清々しい笑顔を見せるふたり。
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白南海 「・・・っつーわけだからよぉ、ワールドスワップの旦那は俺らを介してくれていいんだぜ?」 |
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エディアン 「ぶっちゃけ暇なんですよねこの頃。案内することなんてやっぱり殆どないじゃないですか。」 |
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エディアン 「あと可愛いノウレットちゃんを使ってあんなこと伝えるの、やめてくれません?」 |
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白南海 「・・・・・もういっそ、サボっちまっていいんじゃねぇすか?」 |
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エディアン 「あーそれもいいですねぇ。美味しい物でも食べに行っちゃおうかなぁ。」 |
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白南海 「うめぇもんか・・・・・水タバコどっかにねぇかなー。あーかったりぃー。」 |
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エディアン 「かったりぃですねぇほんと、もう好きにやっちゃいましょー!!」 |
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白南海 「よっしゃ、そんじゃブラブラと探しに――」 |
ふたりの愚痴が延々と続き、チャットが閉じられる――