
小さい頃の私には、父と母のほかにもうひとり家族がいた。
父方の祖母、鮎喰静だ。
海外の任地や出張に私を連れていけない場合も多く、両親が揃って不在になることも少なくなった。
自然ななりゆきで、幼い私を育てる役目を買って出てくれることが多くなった。
世界で活躍する息子の後押しをしたい考えと、初孫のかわいさもあったのかもしれない。
自分で言っちゃう?って思うかもだけど、そこのところを疑ったことはないんだ。
私が普通の子供でなくても、おあばちゃんはたくさんの愛情を注いでくれた。
たとえ姿が見えなくても、目に入れても痛くないくらいに可愛がってくれていたから。
私にとっては祖母というより、三人目の親みたいな存在だ。
もちろん、というか幸いなことに、私の家庭は両親との関係も悪くはなかった。
寂しい思いをしたり、愛情に飢えることがないように、気を配ってくれていたのだと思う。
幼い頃は当たり前に思っていたこと。この歳になってみて、気づいたことのひとつかもしれない。
私の名前を決めるとき、一文字の名前がいいと言ったのも祖母だった。
鮎喰の家にも、祖母の実家にも命名の法則に関するしきたりはなかった。
けれど自分の子供には、もしも女の子であれば同じ一文字の名前をつけてみたかったとか。
パパは一人っ子だったから、私のとき、初めてチャンスが巡ってきたというわけだ。
「透」という名前の出典は定かではない。
同じ「とおる」という音を持つ名前といえば、平安時代の貴族に源融という人がいたらしい。
光源氏のモデルだと言われている人だ。正真正銘の皇子様で、ものすごいイケメンだったのかも。
またの名を河原院の左大臣。別の物語では、仙人になるチャンスをふいにした人。
ん~~~~~………私と関係あるのかな。ないよね多分。
そういうわけで、「透」の語源については……単に透明だったから、以外の理由がわからない。
もしも昼間になっても覚えていたら、パパかママにでも聞いてみようと思います。
今はRINEがあるから、いつでもどこでも簡単に通話できちゃうのです。
便利な時代になったものだよね。
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透 「……ええと、おばあちゃんの話だっけ。どこから話そうかな」 |
祖母には―――うん、お気に入りの椅子があった。
大きな背もたれと優美な曲線を描くひじ掛け、柔らかいクッションがついた、藤の椅子だ。
台座のところが円形になっていて、自由自在に方向転換ができるようになっている。
お尻も深く腰掛けて、楽な姿勢でゆったりと体重を預けられる椅子だった。
奥の洋間の光差す窓辺で、籐の椅子は暖かな陽光を浴びていた。
晴れた日によじ登ってみると、お日さまの匂いがしたんだ。
二人分の体重を安心して預けられたし、いつまでもいられるくらいに居心地のいい場所だった。
だから、祖母と過ごした思い出の光景には、いつも決まってあの椅子があった。
窓の外に見える、不思議な木の名前を教えてくれたのも祖母だった。
その木にはゴワゴワとした焦げ茶色の樹皮がなく、まるで肌が剥き出しになっているみたいだった。
祖母に手を引かれて、実際にあの幹に触れてみたときの驚きを今でもよく覚えている。
すべすべだったんだ。ぬめぬめ、とまではいかないくらいのすべすべ感がありました。
夏になると、ピンクっぽい鮮やかな色の花を咲かせた。その木の名前は「百日紅」。
祖母は生け花を嗜んでいて、たくさんの花の名前を教えてくれた。
珍しい花が手に入れば一番に見せてくれたし、私にとっての祖母は花の魔法を操る魔女だった。
花々は私に四季の移ろいを感じさせてくれたし、想像力を刺激して世界の広さを教えてくれた。
私が花の名前を憶えて、正しく言い当てられるようになることを楽しみにしていた様だった。
私のおばあちゃんは、ウィリアム・モリスの大ファンでもあった。
モリスはヴィクトリア朝のデザイナーで、植物のモチーフを生活の中へと持ち込んだ人だ。
祖母は幻想の薫り漂う植物のデザインを愛していたし、壁紙やカーテンの柄にも使っていた。
ロンドン郊外の生家を訪ねたときの思い出を何度も聞かされたし、いつも楽しそうに話してくれた。
きれいなものを、きれいと言うこと。
すきなものを、すきと言うこと。
ココロ震わすものと出会ったときには、感動をそのままに表現すること。
祖母が私に伝えたかったのは、ありのままの世界を認めること。
おばあちゃんは素敵な人だったんだよ。
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透 「大好きなおばあちゃん。鮎喰静は、」 |
―――私がCERVの研究所に移って、二度目の冬に亡くなった。
重い病気を患ったり、長く苦しむこともなかったと聞いている。花の魔女は眠るように逝った。
私は遠く離れた異国の地で、かけがえのない家族を喪ったことを知らされた。
たくさん泣いて、みんなを心配させてしまったことを憶えている。
今でも時々寂しくなるけど、悲しみは薄らいで優しい記憶が残っているだけ。
祖母の思い出はこの胸の中に息づいているし……こんな私にも、新しい家族ができたから。
そういえば、この間の夏祭りにおばあちゃんの浴衣を着ていきました。
大きくなった私の晴れ姿、見せたかったな。きっと喜んでくれたと思うの。

[870 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[443 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[190 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[380 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[296 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[204 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[143 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[61 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[123 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[108 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[129 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[12 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[37 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面に映るふたりの姿。
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エディアン 「・・・白南海さんからの招待なんて、珍しいじゃないですか。」 |
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白南海 「・・・・・いや、言いたいことあるんじゃねぇかな、とね・・・」 |
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エディアン 「・・・・・あぁ、そうですね。・・・とりあえず、叫んでおきますか。」 |
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白南海 「・・・・・そうすっかぁ。」 |
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白南海 「案内役に案内させろぉぉ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「案内役って何なんですかぁぁ―――ッ!!!!」 |
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白南海 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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白南海 「役割与えてんだからちゃんと使えってーの!!!! 何でも自分でやっちまう上司とかいいと思ってんのか!!!!」 |
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エディアン 「そもそも人の使い方が下手すぎなんですよワールドスワップのひと。 少しも上の位置に立ったことないんですかねまったく、格好ばかり。」 |
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白南海 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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白南海 「・・・いやぁすっきりした。」 |
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エディアン 「・・・どうもどうも、敵ながらあっぱれ。」 |
清々しい笑顔を見せるふたり。
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白南海 「・・・っつーわけだからよぉ、ワールドスワップの旦那は俺らを介してくれていいんだぜ?」 |
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エディアン 「ぶっちゃけ暇なんですよねこの頃。案内することなんてやっぱり殆どないじゃないですか。」 |
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エディアン 「あと可愛いノウレットちゃんを使ってあんなこと伝えるの、やめてくれません?」 |
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白南海 「・・・・・もういっそ、サボっちまっていいんじゃねぇすか?」 |
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エディアン 「あーそれもいいですねぇ。美味しい物でも食べに行っちゃおうかなぁ。」 |
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白南海 「うめぇもんか・・・・・水タバコどっかにねぇかなー。あーかったりぃー。」 |
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エディアン 「かったりぃですねぇほんと、もう好きにやっちゃいましょー!!」 |
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白南海 「よっしゃ、そんじゃブラブラと探しに――」 |
ふたりの愚痴が延々と続き、チャットが閉じられる――