
素敵な浴衣も買ったので、話の流れで夕方から夏祭りの花火をみんなで見ようとい事になった。
普段あまり大使館の外に出ないマグノリアちゃんも、一緒に花火を見に行ってくれる流れになって私は嬉しい。
でも、浴衣ってピシッと着るのがなかなか難しいんだよね。
特にマグノリアちゃんやアズちゃんは胸が大きいから大変だと思う。
ユカラとアズちゃんは午前中から用事があるらしく、それぞれ出かけていった。
学生は友達の付き合いとか、課題とかあって大変だなあと思いながら、私は私で学校に用事があったので午前中に済ませておく事にした。
学校での用事をサクサク済ませて大使館に戻って来ると、夕方近くになっていた。
シャワーを浴びてから、いそいそと浴衣に着替えようとするとドアをノックする音が聞こえた。
「深雪様、少しよろしいでしょうか?」
マグノリアちゃんの声がしたので、私は秒で返事をする。
浴衣を一度ベッドに置いて駆け寄ると、ドアを開けた。
「マグノリアちゃん?どうぞどうぞ、開いてるよー!」
目の前には浴衣を着て、ちょっと恥ずかしそうにしているマグノリアちゃん。
「浴衣を自分で着てみたのですが、これで合っていますでしょうか?」
「あっ、マグノリアちゃんやアズちゃんは、あまり浴衣とか着物着ないものね」
イバモールチナミで試着した時はタオルを入れてかなり調整してたんだった。
アズちゃんと二人でスポーツブラを買ったから、それを着けているとしても着慣れていないせいもあって着崩れしてる所も少々。
私は錬金アカデミーで着ていた服が着物をアレンジしたものだったので、和服は結構着慣れている。
アズちゃんの方はちゃんと浴衣着られてるかな? などと気にしつつもマグノリアちゃんの浴衣を整えるのだった。
「普段浴衣とか着ないから、どんな感じが良いのか分からないよね。私に任せて!うーん、胴のところはタオルやっぱり一枚入れて置くほうが着崩れしないかも」
「深雪様、ありがとうございます。助かりました」
マグノリアちゃんにお礼を言われてホッコリしつつ、自分の浴衣も鏡を見ながら着替える。
「そろそろ夏祭りに出掛けようか。ユカラとアズちゃんが先に待ってるかもしれないし」
「はい。花火、楽しみです」
夕暮れになり、空も暗くなり始めたのでマグノリアちゃんと一緒に集合場所の神社へと出掛けるのだった。
神社に着く前から屋台がいくつかやっていて、食べ物の美味しそうな匂いが漂ってくる。
花火や屋台を楽しみたい人達は沢山いるようで、目を離すと行き交う人混みでマグノリアちゃんを見失ってしまいそうだ。
「マグノリアちゃん。はぐれない様に手を繋ごう」
私が手を差し出すと、マグノリアちゃんが頷いて握り返してくれた。
なんという役得。
このまましばらくマグノリアちゃんの手を繋いでゆっくり歩きたいなんて想像してたら、あっという間に待ち合わせ場所に着いてしまった。
名残惜しいけど、そっと手を離す。
「深雪ちゃん、マグノリアちゃん。こっちだよ」
浴衣を着たアズちゃんとユカラは先に着いていたようで、私達の姿に気づいて軽く手をあげた。
「先に着いてたんだねー、ごめんね。結構待った?」
私が聞くと、二人は横に首を振る。
「いや、俺もアズも今来たとこ。大して待ってない」
「そっか、それなら良かった。花火までまだ時間があるし、屋台とか見て回ろう」
「うん。食べる所と遊ぶ所がいっぱいで目移りしちゃうね〜」
マグノリアちゃんはそんなやり取りを眺めてニコニコしている。
「あっ、そうだ。ユカラはちゃんとアズちゃんの浴衣褒めた?みんな結構悩んで選んだんだから、何かしら感想くれないと拗ねちゃうぞ」
「深雪ちゃん。それユカラくんに言ったらネタバレになっちゃってるよ?」
アズちゃんが頬を赤くして照れた。
「言われなくてもアズの浴衣を見た時に褒めたから大丈夫だよ。深雪も夜の色に合ってて綺麗だし、雪の模様が涼しげで良いね。マグノリアの浴衣も花の模様がカラフルで、華やかで似合うよ」
予想外に具体的に褒められて、私もなんか恥ずかしくなってきた。
いやまぁ、ユカラに見てもらう為に選んだようなもんだし、褒めてくれて嬉しいけど。
「あ、ありがと。そうだよねー、マグノリアちゃんの浴衣は白い肌に合ってて妖精みたい。あっ、天使だったわ」
「ふふ、ありがとうございます。深雪様もユカラに何か感想は無いのですか?」
「えっ!?いや、その。浴衣姿とか見たこと無かったけど、着ると似合うよね。カッコいいって思う……」
私がブツブツ呟いてると、ユカラが少し微笑んだ。
「この浴衣、みんなで選んでくれたんだろ。着こなせてるなら良かった。ありがとう」
みんなで浴衣を褒めあって一段落すると、ゆっくりと歩きだして屋台を見て回るのだった。
「屋台が一杯あって目移りしちゃうね。深雪ちゃん的にオススメはあるかな?」
アズちゃんが訊ねたので、私はキョロキョロと辺りを見回すとベビーカステラの屋台に向かった。
「ベビーカステラは手もあんまり汚れないし、歩きながら食べられるからオススメかなー」
「よっ、お嬢ちゃん目の付け所がとてもイイね。一袋なら600円だけど、二袋なら1000円にまけるよ」
店のおじさんが機嫌良く、焼きたてのベビーカステラを袋に入れながら話しかけてきた。
「えー、最初から二袋買わせる様な値段じゃんか。それに二袋も買ったら屋台ここだけでお腹いっぱいになっちゃうよ」
「深雪様。それでは、一つは帰ってから頂いて、もう一つはみんなで食べながらというのはどうでしょう?」
「うん。私もベビーカステラ食べてみたいし、良いんじゃないかな」
マグノリアちゃんの提案にアズちゃんも頷くのだった。
ベビーカステラを私達が買ってる間に、ユカラは他の屋台で牛串を買って一人で食べていた。
「ユカラー、肉なんてどこ行っても食えるじゃん。もっと珍しいの食べようよ」
肉をもぐもぐ食べながら、ユカラが首を傾げてこっちを見た。
「そう言うなら、珍しい食べ物を教えてよ。屋台なんて初めてだから、どれが珍しいか知らねえし」
そう言われてみると、唐揚げにたこ焼き、焼きそばにお好み焼きと、コンビニに行けば食べられそうなものばかりしかないよな。
こういうのって、お祭りの熱気で何となく食べたくなるだけでそこそこ高いしな。
そう考えたら、牛串は珍しい部類だと気づくのだった。
「ごめん。なんか浮かれてて珍しい屋台があるような気がしたけど、よく見た気のせいだった」
「深雪様、それではあの袋に入っているお菓子の様なものは珍しくないのでしょうか?」
マグノリアちゃんが指差す先にはわたあめ屋さん。
子供のときよく買って貰ったけど、確かに綿飴って普段食べないよな。
「綿飴かー、確かに普段食べないよね。もこもこした甘いやつだけど、マグノリアちゃんは見るの初めてかな?」
コクリと頷くマグノリアちゃん。
「よし、それじゃ綿飴買っちゃおう。アズちゃんも買う?」
「私はあっちのカラフルなチョコのやつが美味しそうかなって。チョコバナナっていうんだね」
そういえばチョコバナナも屋台でしか食べないから、珍しい食べ物だった。
「あー、あれもお祭りの屋台ならではの食べ物だねー」
「私、買ってくる〜」
ウキウキした足取りでチョコバナナを買いに行くアズちゃん。
綿飴の方も好きな絵の袋を選んでもらって、マグノリアちゃんはミ〇フ〇ーの袋をもらってニコニコとしていた。
「袋の中に入ってる綿っぽいのを千切って食べるんだよ」
「ふわふわしてますね。いただきます……甘い。どんどん溶けていきます」
綿飴の初めての食感に目をパチクリさせているマグノリアちゃんがとてもカワイイ。
私もベビーカステラをもぐもぐしてると、アズちゃんがチョコバナナを持って帰ってきた。
「お待たせ。あっ、みんな先に食べててずるい。私もチョコバナナ食べる」
アズちゃんがあーんと口を開けてチョコバナナにパクっと口を付けているのを、私は何となくジーッと見つめてしまった。
「えっ、何。深雪ちゃん?」
食べるのを止めてキョトンとするアズちゃん。
「チョコバナナってなんかこう、エッチな感じに見えるよね」
「えっ何が?あっ……」
アズちゃんも何か察してしまったようで、チョコバナナを食べずにずーっと見詰めてしまうのだった。
「バナナでエッチってどんだけ欲求不満なんだよ。深雪が余計なこと言うから、アズが食べづらくなってんだろ」
「違うよ、アズちゃんの口元色っぽいなとか考えてて、つい。いや、こんな話したら食べづらいよね、ごめんねアズちゃん。そうだユカラ、代わりに食べてあげなよ」
「何でだよ」
ユカラが私の額に軽くチョップした。レイヤ先生みたいな事すんな。
「だって、チョコバナナ勿体無いじゃん!アズちゃんにはお詫びに私がイチゴ飴買ってあげるから」
「えっ、でも……ユカラくん、いいの?」
アズちゃんが恥ずかしそうに上目遣いでユカラを見詰めた。
「牛串食べ終わったから。アズに代わりのやつ買うなら俺が食べるよ」
「……共食い」
「深雪ちゃん!妄想は口に出しちゃダメだよ」
アズちゃんにまで叱られてしまった。
「ゔっ、全くそのとおりです。浮かれてて申し訳ない」
そんなこんなで、他の屋台もちょこちょこ回ると花火の時間になった。
「結構いい場居取れたねー、ここなら花火よく見えるよ」
丁度いい感じに周りの人から少し離れて花火が見られる場所があったので、私達は夜空にあがる花火をゆっくりと眺めることができた。
「たまやー」
私が声をかけると、他の三人が一斉に私を見た。
「いや、これ花火の掛け声で『たまやー』って言ったあとに『かぎやー』って言うんだよ」
「ホントかよ。誰もやってないぞ、そんな事」
ユカラが疑いの眼差しを私に向ける。
確かに周りを見るとあんまりやって無いよな。
「本当だよ、私の世界ではそうだったんだって。信じて!?」
私がそう言うと、次の花火がドーンとあがる。
「かぎやー、ふふ。なんだか面白いね」
アズちゃんとマグノリアちゃんが声を合わせてくれて、とても楽しそうに笑った。
「そうだよねー、折角の花火を黙ってよ眺めててもつまんないじゃん」
ユカラも納得したようで、それからみんなでワイワイ話しながら花火を楽しむのだった。
最後の花火はやはりスターマインで光の雨が降り注ぎ、あちこちで拍手が起きていた。
「やー、楽しかったねー。最後の夏祭りに来れて良かった」
「うん。今日はとっても楽しかったね。素敵な思い出になりそう」
アズちゃんも頷いて微笑む。
「私もとても楽しかったです。ユカラ、どうかしましたか?」
マグノリアちゃんが黙って私達を見つめてるユカラに、不思議そうに訊ねた。
「ん。お祭りの時もいいなって思ってたけど、花火を見上げて楽しそうにしてるアズと深雪の浴衣姿が可愛かった」
ニッコリと微笑むユカラに、私とアズちゃんは一瞬にして茹でダコの様に顔を赤くしてしまうのだった。
イラスト:アズさんPL感謝ですー!