
ほんの些細なすれ違いで、人は離れたり衝突してしまうものだ。
切っ掛けは、もしもウェディングドレスを着るとしたらという他愛もない話だったが。
「ウェディングドレス着る時はメガネ外して」
ユカラのなにげない一言が、私の心を傷つけた。
私って眼鏡っ子って自覚あるし、病める時も苦しい時もメガネかモノクルと共に生きてきたんだよ。
それが一生に一度の大イベントであるウェディングドレスが着られる時に、メガネだけ仲間はずれにされたらメガネが可哀想ではないか。
式場の控室に一人ぽつんと置き去りにされるメガネの気持ちも考えて欲しい。
その様な旨をユカラに伝えたのだが、メガネは生き物じゃ無いし感情は無いだろって返されて正論故に腹がたった。
もっと身の回りのものを擬人化できる想像力を養うべきである。
「もういい、この事についてはユカラとは永遠にわかり合えないと思う。きみと私ではお互いに見えている世界が違うんだよ」
そんな捨て台詞を吐くと、私は自分の部屋へと戻ってゆく。
途中でマグノリアちゃんにばったりと出会うが、メガネの事で頭がいっぱいだったし、ここで立ち止まるとユカラが追いついて来そうだったので、軽く会釈だけして通り過ぎるのだった。
……うーん。
私って怒ってるうちに冷めてくるから、メガネの事で何で喧嘩してんだろ? っていう客観的な感想が、地味にボディーブローの様に効いてくる。
こんな事で喧嘩してるのアホらしいのでは?いやいや、でも眼鏡の事は私のコダワリでもあるし……うおおおっ。
私からやっぱ謝ろうかな。
私は悪くないとは思うけど、ユカラにも非がある訳じゃないし。視力が良いとメガネなんて別に使わないから重要性とか分かんないよね。
そんな事をグダグダ考えていたら、ドアを叩く音。
え、このタイミングだとユカラ?
「深雪」
咄嗟に寝てることにしてしまおうと、音を立てないように息を止めてしまう。
び、びびってなんか無いんだからね!
「深雪。マグノリアに言われて来た」
マグノリアちゃんが?
私とのゴタゴタを話しちゃったんだろうか。
理由を聞いたマグノリアちゃんに叱られて、仕方なく私の所に謝りに来た感じ?
何かそれはそれで、心が籠もってなくてムカつくな。
少し拗ねた態度で応対してしまう。
「…なに?」
「とりあえず中いれろ」
と言いながら扉を開けようとするユカラ。
コラァ、こっちの返事を待てよぉー!
開けさせないように抵抗するも虚しく、ユカラに侵入を許してしまう。
テーブルの椅子にユカラが腰掛けたので、私は何となくベッドの方に座って距離を取った。
「あのさぁ…」
「どーぞお話して。私の分身だから」
メガネを外してテーブルに置くと、ユカラの方へと向けた。
「あのな…」
「ユカラがなんと言おうがメガネは私が小さい頃からの大切な相棒であり分身なんだかんね。だからメガネに話してよ」
謝るのなら私にでは無く、メガネに謝ってほしい。
メガネにユカラが謝ったら、何だか心が晴れる気がした。
「そこまでメガネにこだわる意味が分からない」
うん。私にも分からない。
でも、こうなった以上引くに引けない意地というものがあるんだ。
なんかこう、いい感じに察してくれユカラ。
「分からないだろうね。ユカラはイケメンだし身体能力も高いくせにそういうの鼻にかけないっていうか気にしてないから」
「…?なんの話だよ」
……メガネ使わなくても目がいいってことだよ。
いや、何か主張が弱いな。
私にはもっとこう、メガネに対する愛着とか拘りがある所を見せつけねば。
メガネあっての私だと言うことを、今ここでユカラに『解らせて』やるのだ。
「アズちゃんみたいに可愛くてスタイルも良くてアイドルしてた様な女の子と違って、私は何もかも普通におさまった取り柄のないヤツだからメガネがあまり普及してない世界でのメガネキャラって個性を、結構大事にしてたんだよ」
ユカラがぽかんとした顔でこっちを見た。
ふふん、私の説得力が高すぎたかも知れない。
「メガネしか取り柄がないって?」
「うん」
頷いた私は、次の瞬間なぜかベッドに組伏せられていた。
「ぎゃあ!え!?ちょ、ユ、ユカラ…」
真剣な眼差しが近づいてくる。
えっ、怒ってるの?
なんか言ってよ、怖いんだが!?
ユカラは返事の代わりに私に唇を重ねると、私の身体から力が抜けるのを感じた。
この手練れた感じの流れに今までの感情がうやむやになって、ただ彼に身を委ねたくなってしまう甘えん坊の心が顔を出す。
見つめ合う瞳。
言葉なんて無くても、今は分かりあえている様に感じる。
もう一度唇を重ねると、ユカラの舌が私の口に入ってくる。
絡み合ったり、吸われたりして何かタコの踊り食いみたいだとかボーッと考えていた。
「んっ、ん、…っ、………はぁっ、はぁ」
ユカラにされるがままで、私もなんかこう対抗なきゃ。的な対戦ゲームちっくな思考は、私のストレート負けで決着がついた。熟練度がチートすぎんだろ。
意識が飛んじゃいそうになるのを、頭の中でア○パ○マンのマーチを歌いながら持ちこたえようとしたが、キスだけで私のライフはゼロである。
「メガネなんて無くてもこうやって俺を掻き立てることが出来てる」
ああ、もう、そういう話どころじゃ無いし……キスの心地良さにア○パ○マンも力が出ないよ。
ふわふな頭の中で、ユカラをギュッと抱きしめた。
「ふあっ…、ぅ、んんっ」
首元にカプリとユカラが吸い付く。
ユカラの容姿も相まって、吸血鬼に血を吸われる乙女の様な気持ちになってしまった。
「メガネの深雪ばっか見てきたから確かに俺にとってもメガネは深雪の一部かもしれない。でも無くても深雪は深雪だ。俺にとっての深雪は“こいつ”だけだし、モノは所詮モノだ」
ベッドから起こされて、包み込むように抱きしめられながら耳元でユカラが囁く。
「でも、傷つけたなら、悪かった。…まだ怒ってんのかよ」
なんか『解らせられた』のは私の方だった。
「もう怒ってない…」
「ならいい。用件はそれだけだ」
……メガネの話とエッチ、どっちの用件だったのだろうか。
立ち上がるユカラをベッドに寝そべりながら見上げた。
「深雪」
「はい」
「その首の痕、見るたびにちゃんと今の話思い出せよ」
「首の…ってちょ、教師がこんなのつけていったら学校中に噂が広まるじゃん!」
首筋にくっきり付いたキスマークを近くにあった手鏡で確認すると、ふわふわしていた感覚から呼び起こされて、恥ずかしさで悶えた。
「あと、可愛かった」
「…………え…」
「俺にもああいう衝動があるんだな。知らなかった」
「ど、どういう意味?」
「最後までやっちまおーかと思ったけど抑えられて良かった。」
「………!!!!」
えっ、今さっきまでのアレって私へのお仕置きとかそういうのじゃ無かったんだ!?
ユカラが私に好きでやったって事?
動揺してるうちにユカラは部屋を出てしまった。
一人残された私は、変に身体が火照って眠れる訳もなく、ゴロゴロしてるうちに朝になった。
「……なんか頭がボーッとするし、寝汗で風邪引いたかも。今日は休もう、うん」
首筋に付いたキスマークを指でなぞると、自然と吐息が漏れた。

[860 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[431 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[492 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[171 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[369 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[274 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[193 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[134 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[47 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[116 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[1 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[24 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[72 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
暗い部屋のなか、不気味な仮面が浮かび出る。
マッドスマイル
乱れた長い黒緑色の髪。
両手に紅いナイフを持ち、
猟奇的な笑顔の仮面をつけている。
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マッドスマイル 「――世界の境界を破り歩いてはその世界の胎児1人を自らの分身と化し、 世界をマーキングしてゆく造られしもの、アダムス。」 |
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マッドスマイル 「アダムスのワールドスワップが発動すると分身のうち1人に能力の一部が与えられる。 同時にその世界がスワップ元として選ばれる。スワップ先はランダム――」 |
女性の声で、何かが語られる。
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マッドスマイル 「・・・・・妨害できないようね、分身。」 |
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マッドスマイル 「私のような欠陥品でも、君の役に立てるようだ。アダムス。」 |
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マッドスマイル 「・・・此処にいるんでしょ、迎えに行く。 私の力は覚えてる?だから安心してね、命の源晶も十分集めてある。」 |
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マッドスマイル 「これが聞こえていたらいいけれど・・・・・可能性は低そうね。」 |
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マッドスマイル 「絶対に、見つけてみせる。」 |
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マッドスマイル 「そして聞こえているだろう、貴方たちへ。 わけのわからないことを聞かせてごめんなさい。」 |
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マッドスマイル 「私はロストだけど、私という性質から、他のロストより多くの行動を選ぶことができる。」 |
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マッドスマイル 「私の願いは、アダムスの発見と・・・・・破壊。 願いが叶ったら、ワールドスワップが無かったことになる・・・はず。」 |
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マッドスマイル 「・・・これってほとんどイバラシティへの加勢よね。 勝負ならズルいけど、あいにく私には関係ないから。」 |
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マッドスマイル 「アダムスは深緑色の髪で、赤い瞳の小さな女の子。 赤い服が好きだけど、今はどうかな・・・・・名前を呼べばきっと反応するわ。」 |
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マッドスマイル 「それじゃ・・・・・よろしく。」 |
チャットが閉じられる――