［基本］OK.　［戦闘］OK.　［スキル］OK.　

　見上げれば広がる青い空。そして、白い雲。
　この場には夏を感じる要素の全てが揃っていた。虹彩に映るすべてのものが、今が夏だと主張する。ジーワジーワと岩に染み入る蝉の声に、思い出したように揺れる風鈴が合の手を入れていた。
　日傘と呼ぶにはいささか派手なパラソルが切り取った陽光の死角だけが安寧の地だ。黄色、白、青、赤……子供用のパラソルであるが故、カラフルであり小さい。パラソルに比例して安寧の地も小さくなるのはどういった道理だろう。誰も太陽の光など浴びたくはないのに。
　ラジオがひっきりなしに垂れ流すのは他愛のない会話と益体もない愛想笑い。乾いた相槌の隙間に流れるチューンですら、やれ浴衣だのやれ花火だのと真夏の色に染められていた。蝉からの逃避に用意したはずなのに、涼しいスタジオから届く雑談はかえって神経を逆撫でする。風鈴だけで良かったかもしれない。いつの間にか風は止まっていた。
　太陽が地上を焼き続ける。温度計を最後に確認したのは一体いつだったろうか。少なくとも四十を超えていることはないとは思うが。どんな数値でも何ら現状の打破に寄与しないことに気づいて放り投げてしまったため、今は手の届かないところに転がっている──皮肉にも、奴は日陰の一角に収まっていた。
　人間には決して逆らうことの出来ないものが二つある。大自然とクーラーの故障だ。
　都会の夏が暑いのはヒートアイランド現象のせいだという。温暖化対策の必要性は全盛期から叫ばれてきた。それを無視し続けたのは他ならぬ国民だ。ため息すら躊躇われるほどに熱されたコンクリートジャングルの中で彼は一人、ビルの屋上でビニールプールに浸かっていた。ツケを払うとはこういうことかと、ぼんやり空想しながら。



　事の起こりは前日のことだった。
　八月のこの時期といえばお盆の季節でもあり、イバラシティでもそれっぽいお盆イベントは社会通念上相当であると認められているらしい。少なくとも、我が職場ではそのようだった。お盆休みという制度がそれを雄弁に物語っている。

「お盆はどうするのかしら。またご実家に？」
「いえ、帰省はしないつもりです。今年は法要も無いですしね」
「そう、じゃあ、この期間は急に呼び出しても大丈夫ね？……冗談よ」
「……悪い冗談ですよ。勘弁してください。……冗談ですよね？」

　上司の問いに答える。別段帰りたい用事もない。弟は帰ると言っていたので、親類からの小言は全部任せるつもりだった。毎度毎度いい加減に身を固めろと言われる身にもなって欲しい。出来るものならとっくに固めている。
　それに比べ、クーラーは人類が発明した英知の結晶だ。幾ばくかの電気代さえ支払えば、常に快適な気温の中で生活を営むことが可能であり、室外機からの人工排熱は都市を焼きコンクリートを熱することで都市の人間の生活をより一層過酷にし、結果より多くのクーラーが稼働することになり、都市は矛盾を生み続けるわけだが、快適でさえあれば、真夏日の猛威など己に何の関係もない。
　クーラーは全てを解決する。熱中症など恐るるに足らずということが近年の研究でも判明している。上司に別れを告げた後、明日から始まる短い夏のバケーションに思いを馳せ、彼は帰路に就いた。



　別に三十九度じゃなくてもとろけそうになる。
　翌朝、彼が気がかりな夢から目を覚ますと、部屋の室温が体温に匹敵する地獄のような数値（ヘルオンスーチ）になっていることを発見した。まだ朝の八時だ──この時間からこんなに？
　たまらずクーラーのスイッチを入れる。しばらくすれば室温も下がり、もうひと眠り出来るはずだ。頑張るクーラーを一瞥すると、彼は再び布団に潜り込んだ──

「……あっつい！！！」

　布団を引きはがして飛び起きる。温度は確かに二十六度に設定してあるのに、部屋の温度は下がっていない。それどころか先ほどよりも暑くなっているような気がして温度計を確かめる。温度は──

「三十八度じゃねえか！！！！！！」

　叫んだところで冷静さを取り戻した。
　涼しい風が出ていればこんなことにはならないはず、ならばおかしいのはクーラーだろう。直感的に閃くと、風が出るところ（名称不明）に手を当てる。確認には十秒を要した。指先に当たる風から冷房設定にも関わらず温風が出ていると理解するまで三秒、これは困ったことになったぞと困惑するまで二秒、そして今日がお盆の初日であり、この時期に修理など望めないだろうと絶望にたどり着くまで五秒。

「……研究室、借りるか」

　更に十秒ほど熟考し、手近な職場へ避暑に向かうことにした。



　しかしながら、勝手に研究室に立ち入って冷房をガンガンに効かせて過ごすというのも広義での横領や着服に当たる懸念があり、部下の進退に責任を持つ上司たる笹子さんに迷惑がかかるな、と冷静な判断を下すことが出来たため、エンジョイ田本でビニールプールとパラソルを買い、人目を気にせず水着姿で過ごせる場所を求めてオフィスの入った第三湖東ビルの屋上に目を付けたのであった。

「僕が……僕がやらなきゃ……僕が暑さでぐったりしたままだと国民一人あたりの生産量が32％低下しちまうよ……」

　ビニールプールに足踏み式のポンプでひたすら空気をつめること数分。既に太陽は真上に近い角度まで到達しており、全身から汗が噴き出て本末転倒の趣さえ感じ始めていたが、途中で止まれるほど賢くはない。ここで引けば夏に負けた男として子供たちから後ろ指を指されることだろう。
　出来上がったプールに屋上の家庭菜園用水道からホースで水を張り、いい感じのところにパラソルを固定して日陰を作る。服を脱ぎ、水着姿（日焼けや社会秩序を考慮し、一応上着も羽織った状態）でプールに飛び込む。バシャアと豪快な音を立て、水が四方に飛び散った。打ち水の効果も期待できる。
　プールは小さなバスタブの如き窮屈さを強いてくるサイズであり、体育座りするか正座するかしない限りは解放感の得られない絶妙な制約があった。体をくの字に曲げて両足を出し、ソファに腰かけるようにして仰向けに。上半身はぎりぎり縁にもたれかかるこの姿勢だけが快適に過ごせると気づいたのは、夏のチューンの三曲目が流れてきた頃だった。

「……何、してるの？」

　怪訝そうな声。てっきり風でも吹いたものかと思ったが──首だけ動かして視線を向ける。見れば上司の姿があった。すわ暑さに脳をやられた末の幻覚か、はたまた熱と水の織り成す蜃気楼かとも思ったが、その割には姿がしっかりしている。つまり本物だ。直感もそう告げている。

「浴です」
「浴？」
「海でも水でもないので」
「水でもないの？」
「ぬるま湯です」
「まあ……そうよね。ここ、暑いもの、いやそうじゃなくて」

　刻々と熱と蓄えているため、水が水だったのは遠い昔の話だ。
　突然の来訪にも言いよどむことなく答えたことで、上司はいくらかたじろいだように見えた──畳みかけるなら今だ。孫子もそう言っている。

「言いたいことはわかります。つまりはこの雑居ビルの屋上に設置されたビニールプールが大家さんの許可を得ずに屋上に設置された脱法ビニールプールではないかと疑っているんですね」
「え？　あー、いやそれもあるけれど」
「そこについては大丈夫です。屋上で大規模に水を使っていいって快諾してくれました」
「なんでそういう所で周到なのよ」
「目的があって、それを叶えないと命に係わる状況ならば、誰だってなんだってしますよ」
「どういうこと？と、いうか、私が聞きたかったのはどのようにじゃなくて、何故の部分なんだけど」
「あ、はい、それは簡単ですね。我が家に設置された空調が今朝突然壊れたので避難してきたんです。避暑に」

　つまりは悲劇である。壊れたクーラーほど役に立たない物はない。そんな役立たずと一緒に居ては、自分まで役立たずになってしまいかねない。強いメッセージを込めたはずが、上司は小首を傾げていた。

「……繋がりそうで繋がらない回答だわ、職場に空調入れて避難すればいいじゃない」
「……いや、いやですよ。そのですね、留守中に勝手に空調使ったら横領になるんじゃないかなって」
「……それくらいなら、一本連絡くれれば許可したわよ」
「あぁ、そうなんですね。それならちょっとしばらく研究室に篭ってます……もうちょっと涼んでからでいいですか？　折角ここまで準備したので」

　潔さとは美徳である。懸念事項であった上司の許可が下りたとあれば、炎天下に長居する必要もなかろう──しかし何時でも撤退できるとなると、この瞬間を味わい尽くしてからでも遅くはない。空調一つでそんな余裕すら生まれてくる。

「えーと、それはいいけれども。今年の暑さは本当に命に係わるから、もっと早くに相談してくれてよかったわよ」

　優しい。

「そうですか、そうですね。今度から命にかかわりそうな案件は早めに相談します。そうそう無いと思いたいですが……ところで、笹子さんこそ何故ここへ？」
「へ？……あぁ、私は忘れ物を取りに来ただけよ。そしたらビルの階段で上から熱波が吹き抜けて何かと思ったらこうなってたわけ」「なるほど。では山で話してたプールを覚えていて、ここに浸かりに来たわけじゃないんですね」
「……いや、覚えてるし可能ならば浸かりたいと思うけど、残念ながら水着も何もないし、可能じゃないのよね」

　直感が囁いた。実はこの状況、いわゆる水着回なのではないかと。プールなのだから水着姿になることは何もおかしなことではない。理論的な正しさを武器に、ちょっと上司に水を向けてみる。

「まだしばらくは涼んでいるのつもりなので水着を取りに戻られては？」
「……いや、ダメね。ダメだわ。そもそも『持っていない』もの、もしそうするのであれば、買いに行くところからになるわ」

　ダメだった。しゅんとしかけて思いとどまる。夏はまだ長いのだ。

「そうすると残念ですが、今日は無理ですね。またの機会に。いや、研究室を使って良くなった以上またの機会があるのか？」
「なんか、……私が今も今後も入れないプールに涼し気に浸かってるの見てるとちょっとだけ腹が立ってきたわね」
「怒ると暑くなりますよ。それに言うほど涼しくは無いんですけどね。ぬるくなっちゃってますし」
「そう、なら……」

　そう言って、上司はドアの近くにあった蛇口をひねった──見間違えでなければ、凄絶な笑み浮かべて。
　びしゃびしゃと水の跳ねる音が聞こえる。蛇口にはホースが接続されており、まるで荒れ狂う大蛇のように冷水をまき散らしながらこちらに近づいてくる。

「えいっ」
「ぎゃっ！冷たっ！えっ、なんで？何するんですか！？」

　ぬるま湯に浸かり火照った体には、水の冷たさはあまりにも刺激的すぎる。求めていた涼とは違う、暴力的なまでの冷水。冷や水を浴びせるとはこのことを指すのだろう。おまけに上司は良い笑顔だ。

「ぬるいって言ってたし、ゆだっちゃう前にさし水をと思って」
「いや、待って、待ってください。水道水を直は人体に影響が出るくらい冷たいから勘弁してくださいって」
「大げさね。大丈夫よ水道管も熱くなってるし、多分だけど」
「いや、笹子さん自分が被らないからってそんな余裕ですけど試しに一度浴びてみては？ほら見て、鳥肌立つくらい冷たいんですよ！」
「あら、それならお湯になりかけのプールで暖を取ってみてはいかがかしら」
「暖を取れるほどは熱くなってませんって、あ、ちょ、本当にやめて、冷たい」

　客観的な事実を述べよう。お盆とはいえ平日の真昼間、炎天下の屋上で戯れる水着姿の男とそうでない姿の女。夏でもなければ許されない、でも夏だからこそ許される奇跡の瞬間だ。夏の思い出としては十分だ──水着は拝めなかったが。
　跳ねた水で濡れ鼠寸前になったところで冷静さを取り戻した上司を前に、壊れたクーラーに少しばかり感謝した。今頃、真昼間から酒の入った親族にどやされているだろう弟にも。
　ラジオから流れるヒットチューンは、夏の暑さに流されるなと何度も警句を連呼していた。

ENo.831 Dr.笹子 とのやりとり

ItemNo.9 不可思議な料理 を食べました！
　体調が 1 回復！（6⇒7）
　今回の全戦闘において 器用13 敏捷13 耐疫13 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

MISSIONによる獲得影響力の誤り分を現在の影響力に反映しました。
［第9回］チェックポイント《大通り》 ／ 誤：33 正：38

変化LV を 5 UP！（LV20⇒25、-5CP）
合成LV を 5 UP！（LV35⇒40、-5CP）

隊長(1457) とカードを交換しました！

★★★★アマミノクロウサギ （クリエイト：マシンガン）


クイックレメディ を研究しました！（深度0⇒1）
ナース を研究しました！（深度0⇒1）
アクアブランド を研究しました！（深度0⇒1）

グラトニー を習得！
デスラッシュ を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

偽黒初(77) は 桃 を入手！
Dr.笹子(831) は 桃 を入手！
偽黒初(77) は 羽 を入手！
偽黒初(77) は 爪 を入手！

現在のパーティから離脱しました！

リュウジン区 I-4（森林）に移動！（体調7⇒6）
リュウジン区 I-3（道路）に移動！（体調6⇒5）
リュウジン区 J-3（道路）に移動！（体調5⇒4）
リュウジン区 K-3（道路）に移動！（体調4⇒3）
リュウジン区 L-3（チェックポイント）に移動！（体調3⇒2）

Dr.笹子(831) をパーティに勧誘しました！
麺屋の龍人(1595) をパーティに勧誘しました！
MISSION!!
リュウジン区 L-3：チェックポイント《果物屋》 が発生！
　　 - 偽黒初(77) が経由した リュウジン区 L-3：チェックポイント《果物屋》
　　 - Dr.笹子(831) が経由した リュウジン区 L-3：チェックポイント《果物屋》
　　 - 麺屋の龍人(1595) が経由した リュウジン区 L-3：チェックポイント《果物屋》

［852 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［422 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［483 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［161 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［354 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［251 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［182 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［118 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［44 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［111 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　



　




Cross+Rose越しにどこかの様子を見ているエディアン。

　

　

　








元気よくチャットに入り込むノウレットと、少し機嫌の悪そうな白南海。

　

　






見ていた何かをサッと消す。

　

　

　






　








ノウレットにゲンコツする白南海。




　






検索方法をエディアンに教わり、若を検索してみる。

　

　

　






ノウレットにゲンコツ。





ノウレットの頭を優しく撫でるエディアン。






　







　

　

　

こっそりと、Cross+Rose越しに再びどこかの様子を見るエディアン。




　

チャットが閉じられる――

チェックポイント。

仄かな光に包まれた六角形の柱が立っている。

　

･･･柱から滲み出るように、何かが生み出される。



　




それは言葉を発すると共に襲いかかる！




（初発生のイベント戦：異能FP+5！生産FP+5！）