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【Recursion】
彼らの異能、その正体。
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現代を生きる兄妹、小佐間 御津舟と美鳥夜。
理を外れた姉弟、荊尾 水渡里と繋譜音。
彼らの異能は
本質的に同じである。
“荊尾の血を継ぐ者は、必ず荊尾 繋譜音の異能を継ぐこと”
“荊尾 繋譜音の異能を継ぐ者は、必ずいずれか『片手』に
荊尾の側の親が持つ力を握ること”
これらは繋譜音が生前、姉のことを忘れさせられることへの
要求として、神と名乗る何者かに呑ませたことであるが……
この文章、普通に読むと違和感を感じるだろう。
前者は異能を必ず継承せよと言っていて、けれど後者も同じような
ことを示しているように見える。
けれど何も間違っていない。だから繋譜音はこれを条件として提示し、
相手はそれを呑んだのだ。
『彼らの異能』はたったひとつ。
他者から異能を継承し、これを掛け合わせて行使する。
特異な血を引いた両親から生まれた二人。
水辺は獣や妖の住まう場所、里は人の住まう場所、
それらの間を渡すから“水渡里”。
自然の中にある不規則な命の音、人が考え刻んだ音の印たる譜、
それらの間を繋ぐから“繋譜音”。
ふたつの間に立ちひとつにする、そう言う願いを込められた名が
力に反映されたのかどうかは分からないが。
兎も角彼らの持つ力はただ一つ、これだけである。
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だが、彼らがこの世に生を受け、他者とは異なる理としてこれらの
異能を得た時、
最初に掴んだ力が不味かった。
父は『領域内のものは見なくても形が分かる』力を持っていた。
母は『触れた相手のいのちの流れを感じ取る』力を持っていた。
そして水渡里と繋譜音は、彼らの力を二つの枠に掴んで生まれた。
継承した力は、大元よりは弱い。
だが彼らはふたつの力を掛け合わせ、発展させることができる。
その結果……
領域を目一杯広げ。
そこにある存在全てを感じ取り。
感じ取った相手のいのちの流れを把握し。
その流れを
意図的に加速させる。
……などと言うことが、荊尾 水渡里にはできた。
できるようになってしまった。
齢十二の小娘が悪党を殺し、狩人を殺し、侍を殺し、
獣を殺し、妖を殺し、果てには竜と呼ばれたモノまで殺した、
殺せてしまった理由はここにある。
言ってしまえば究極の初見殺しだ。領域を広げ、異能を起動する、
それだけで領域内にいる全ての命は
自らの血流に体を裂かれ死ぬ。
命ばかりではない。妖気だの霊気だの魔力だの、命とは異なる原理で
動くものたちですら、それらの流れを滅茶苦茶にされて砕け散る。霧散する。
形を留めていられない。
流れを認識できたものであれば、それが何であれ加速させられるチカラ。
汎用性がある訳ではない。パワーが強い訳でもない。
純粋に真っ向から戦ったら大抵の相手には負ける。
弱点もいくつかあるし、この形で異能を長時間使うと本人への負担が大きい。
最悪脳が焼き切れて死ぬ。
ただ“殺す”上では誰よりも、何よりも凶悪。
それが、荊尾 水渡里の持つ力の正体だった。
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姉がこの世から放逐されたのは、この力があったから。
けれど姉をこの世に引き戻す為には、近しい器を用意せねばならず。
故に生前の繋譜音はこの異能をどうすべきか、最後まで悩みに悩んで……
それでも結局子孫の異能を『今の自分』に寄せることを選んだ。
“荊尾の血を継ぐ者は、必ず荊尾 繋譜音の異能を継ぐこと”
一つ目の条件。これは分かりやすい。
今の自分と同じ異能を次代に継承する。
問題は、その次。
“荊尾 繋譜音の異能を継ぐ者は、必ずいずれか『片手』に
荊尾の側の親が持つ力を握ること”
繋譜音の息子を例に挙げると。
息子が生まれた時、第一条件により息子には繋譜音と同じ異能を得る。
そして第二条件により、異能が持つ『ふたつの枠』のうちの一つに、
荊尾 繋譜音の力を掴むことになる。
では、孫はどうか。
孫が生まれた時、やはり第一条件により繋譜音と同じ異能を得る。
そして第二条件により、異能が持つ『ふたつの枠』のうちの一つに、
荊尾 繋譜音の息子の力を掴むことになる。
繋譜音の息子の力の中には当然、繋譜音の力が含まれる。
遺伝に似て、遺伝と異なる方法で。
何代重ねても自分の異能、自分のチカラの形が消えないように。
どれだけ薄まっても、遠くなっても、手繰れば辿れるように。
そして長い時の果て、己の血筋がどこかで交わった時……
ふたつの枠が共に繋譜音のチカラに再帰的に繋がれば、その時こそ
『最も姉に近いもの』ができる筈だ、と。
それが、かつての繋譜音が考え、実行に移した策。
代を重ねるにつれ力が弱まったり、上手く力を使えなかったりする
ようになった荊尾の血筋だが、それは異能が複雑すぎることに加え
参照に参照を重ねた力の輪郭がぼやけ、正しい形、正しい使い方を
彼らが把握しにくくなっていったためであり……
その結果、御津舟が事故で他者を害することになったり、昏田 三に
引き取られて異能の修行に励むことになったりした訳だが。
兎も角。
実際に荊尾姉弟の力に最も近い存在がこの世に生まれ出たため、
繋譜音の考えはある程度良い所を突いていた、と証明された。
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但し──
荊尾姉弟のどちらも、誤解していることがひとつある。
荊尾の異能。
『他者から異能を継承し、これを掛け合わせて行使する』
これ自体は誤りでは無いのだが、
継承方法は遺伝だけではない。
強制されているのは『片手』のみ。
もう片方の手は、ふたつあるうちのもうひとつの枠は、
その手に握っているものを手放し新たな力を受け入れる覚悟が
あるならば、それを試みることができる。
勿論条件はそれだけではないし、容易い話でもない。
気軽に付け外しができるようなものでもない。
ただそれでも、定められた道から外れるためには想定の外側にある力……
埒外の力が必要で。
その為にきっと自分は、そう遠くない未来、
「“お願い”することになるんだろうな。あいつに」
ハザマの澱んだ空を見上げながら。
小佐間 御津舟は、小さく呟くのだった。
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[852 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[422 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[483 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[161 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[354 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[251 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[182 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[118 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[44 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[111 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
―― Cross+Roseに映し出される。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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エディアン 「・・・・・・・・・うわぁ。」 |
Cross+Rose越しにどこかの様子を見ているエディアン。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
ノウレット
ショートの金髪に橙色の瞳の少女。
ボクシンググローブを付け、カンガルー風の仮装をしている。やたらと動き、やたらと騒ぐ。
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ノウレット 「こんちゃーっすエディアンさん!お元気っすかー??」 |
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白南海 「・・・・・・チッ」 |
元気よくチャットに入り込むノウレットと、少し機嫌の悪そうな白南海。
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エディアン 「あ、えっと、どうしました?・・・突然。」 |
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白南海 「ん、取り込み中だったか。」 |
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エディアン 「いえいえいえいえいえー!!なーんでもないでーす!!!!」 |
見ていた何かをサッと消す。
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エディアン 「・・・・・それで、何の用です?」 |
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白南海 「ん・・・・・ぁー・・・・・クソ妖精がな・・・」 |
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ノウレット 「コイツがワカワカドコドコうるせぇんでワカなんていませんって教えたんすわ!」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・何かノウレットちゃん、様子おかしくないです?」 |
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白南海 「ちょいちょい話してたら・・・・・・何かこうなった。」 |
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エディアン 「え・・・・・口調を覚えたりしちゃうんですかこの子。てゆか、ちょいちょい話してたんですか。」 |
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ノウレット 「問い合わせ含め58回ってところっすね!!!!」 |
ノウレットにゲンコツする白南海。
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ノウレット 「ひいぅ!!」 |
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白南海 「いやそこはいいとしてだ・・・・・若がいねぇーっつーんだよこのクソ妖精がよぉ。」 |
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エディアン 「そんなこと、名前で検索すればわかるんじゃ?」 |
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白南海 「検索・・・・・そういうのあんのかやっぱ。教えてくれ。」 |
検索方法をエディアンに教わり、若を検索してみる。
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白南海 「――やっぱいねぇのかよ!」 |
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ノウレット 「ほらー!!言ったとおりじゃねーっすかー!!!!」 |
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白南海 「だぁーまぁー・・・れ。」 |
ノウレットにゲンコツ。
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ノウレット 「ひいぅぅ!!・・・・・また、なぐられた・・・・・うぅ・・・」 |
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エディアン 「システムだからっていじめないでくださいよぉ、かわいそうでしょ!!」 |
ノウレットの頭を優しく撫でるエディアン。
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エディアン 「ノウレットちゃんに聞いたんなら、結果はそりゃ一緒でしょうねぇ。 そもそも我々からの連絡を受けた者しかハザマには呼ばれないわけですし。」 |
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白南海 「・・・・・ぇ、そうなん・・・?」 |
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エディアン 「忘れたんです?貴方よくそれで案内役なんて・・・・・」 |
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エディアン 「あー、あと名前で引っ掛からないんなら、若さんアンジニティって可能性も?」 |
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エディアン 「そしたらこちらのお仲間ですねぇ!ザンネーン!!」 |
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白南海 「・・・・・ふざけたこと言ってんじゃねーぞ。」 |
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白南海 「まぁいねぇのは寂しいっすけどイバラシティで楽しくやってるってことっすねー!! それはそれで若が幸せってなもんで私も幸せってなもんで!」 |
こっそりと、Cross+Rose越しに再びどこかの様子を見るエディアン。
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エディアン 「さてあいつめ・・・・・どうしたものか。」 |
チャットが閉じられる――