
私に名前はまだない。
『黒い短剣』と呼ばれる私の中には、一つの宇宙が内包されております。
この宇宙の中で生まれた技術、力を行使できるのが、言ってしまえば『私の異能』とでも言うべき力でしょうか。
ユ ー キ 様
無論扱いは難しい力ですが、強力な力でしょう。ですが、残念ながら私の使い手はあまりこの力を好んでおられません。
私の使い手にとって私は不要な力というわけですね? ああ、泣きたくなってきた。
ただ、それでも時々は私の力を頼って下さいますので、そんな日は私の喜びの声に呼応して、わが身の中で超新星爆発がどこかで起きているかも知れません。
それはさておき
閑話休題。
この度は私の力を盛大に求められましたので、本領発揮と色々力を行使させて頂いております。
本来過去は変えられません。
ですが、今のイバラシティの時空の歪み具合、『彼女』への並行世界を利用された影響、多重事象の上書き。
ここまでお膳立てがあれば十分。
私の中の、過去現在含めて那由他を超えると科学者と澗を超える文明がお相手しましょう。
我が主を介入させるなど、簡単なこと。
の、筈だったの、ですが。
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血まみれの少女がいた。
腕に抱く女性からは、熱が奪われていく。
少女は彼女の返り血に濡れることも構わず、ただぎゅうと抱きしめていた。
「……次」
そう言った直後、周囲からは色が消えた。
腕の中の女性は消え、周囲にあるのは暗闇だけだ。
『強制力に……指向性がありますね』
首を傾げるユーキに、黒い短剣は悩むように告げる。
『本来確定した事実をどうにかするのです。もとより強制力は確かに働くでしょう。
しかし、ここで発生する彼女の死は大局に影響するものではない。ここまで執拗に死へと繋がる分岐へと戻したがるのはおかしい。
かれこれ貴女が体感した彼女の死は30を超える。そのすべてが全滅です。
・・・
少々、徹底がすぎる』
黒い短剣の言葉に、ユーキは言葉を紡ぐ。
「なら、聞いて、みよ?」
・・
『何かアテでも?』
「んー、見た、まま」
そう言って、ユーキは左目を光らせて漆黒の闇の中へ手を伸ばした。
『ここ』は敢えて全てをあやふやにした空間だ。
その存在が在るのか、ないのか。存在証明を敢えて放棄することによるあらゆる可能性を得た場所。
そんな空間からだこそ、揺らぎをもつ世界へ介入できる。
黒い短剣が道導となることによって、ユーキはユーキの存在を証明ができ、行き来ができる。
その筈だ。
少なくとも黒い短剣はそう認識していたのだが。
・・・・・・
ユーキは手を伸ばし、何もない虚空から一人の少女をひっこぬいた。
それは、今回の救出対象によく似た少女だった。
ツインテールの金髪が特徴で、眼帯をしていて、その四肢は極端に細い。
『ハザマ』という空間の『紗織』という少女によく似ている。否、おそらく並行世界の同一存在だろうと、混乱の中にある黒い短剣は推測した。
どうして彼女がこの場に顕現したのか。
ユーキはこの場所で『何を』見ているというのか。
黒い短剣の動揺を一切合切無視し、ユーキは状況を進めていく。
「どうして、そんなに、紗織おねーちゃんのこと、やなの?」
現れた少女にユーキは真正面に言葉をぶつけていた。
が、少女の方は状況が呑み込めないらしい。ただただ。彼女は慌てた素振りを見せている。
「え、あの? 紗織さん? 誰だろ。えーと、ごめんなさい、ここ、どこかな?」
ユーキを目にした少女は慌てながら周囲を見て――そして、一呼吸――次の瞬間、異常とも言える落差で平静を取り戻した。
「ああ、でもなんであれ、そうだよね。私の知らない人ってことは――」
表情豊かに慌てていた少女はもういない。
「――敵か」
慣れた手つきで、日常のように、薬で無理やり殺した心がユーキを捉える。
そこに容赦もなく。止まる理由もなく。両の手に握られたチャクラムが煌めく。
奪った命の分だけ濁った少女の双眸の向こうで――――
罠に落とす。
首を掻っ切る。
後ろから頸椎を叩き潰す。
眼球を正面から潰し、そのまま限界まで貫く。
命はたくさん奪った。
進んで殺したことはそんなにはない。
だが、それでもきっと、たくさん。
それでも、きっと命は大切で。
誰の命だって、それは尊いものだ。必要があれば何度でも奪うとしても。
それが尊いものだと過去に教えられたその言葉を、ユーキは一切の疑ってなどいなかった。
人が聞けば『良い子ちゃん』だの『偽善者』などと言われるかも知れない思想を、全く逆の行為をしながらもユーキは信じ続ける。
濁る余地などない。最初から『ユーキ』という黒色に染まり切った彼女は、ある意味で、とうの昔から狂っているのだから。
・・・・・・・
――――それがどうしたと澄んだ瞳で射抜いたユーキは、一切合切の容赦なく得物を振り抜いた。
「確証、もてないなら、まず、お話、しなさい!」
放ったチャクラムごと木刀で殴り飛ばされた少女は、吹っ飛ばされながらその言葉を聞いていた。
細い体を持つ少女にとって、『それ』は、ひどくひどく懐かしい、日常の香りを感じていたのだった。
――ああ、叱ってもらったのなんて、いつぶりだろう――。

[844 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[412 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[464 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[156 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[340 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[237 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[160 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[97 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[41 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[17 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
ぽつ・・・
ぽつ・・・
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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エディアン 「・・・おや。」 |
サァ・・・――
雨が降る。
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エディアン 「ちょうどいい感じ、涼しげでいいですねぇ。・・・・・あ、あれ?」 |
よく見ると雨は赤黒く、やや重い。
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エディアン 「・・・血の雨、とでも?悪趣味ですねぇ。 ワールドスワップはほんと悪趣味。ナンセンス。」 |
降ってくる雨を手で受け止める。
雨は手に当たると同時に赤い煙となり消えてしまう。
地面にも雨は溜まらず、赤い薄煙がゆらゆらと舞っている。
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エディアン 「・・・・・涼しげでもないですし、チューニ感すごいですし、・・・ほんと、悪趣味。」 |
チャットが閉じられる――